特集 公衆衛生が進めるリプロダクティブ・ヘルス/ライツ
対論―ピル問題―①[賛成派]避妊は女性にとっての悲願だった
北村 邦夫
1
1(社)日本家族計画協会クリニック
pp.116-118
発行日 2003年2月1日
Published Date 2003/2/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401100803
- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
医学論争
経口避妊薬(以下,ピル)の作用機序には,①排卵の抑制,②子宮頸管粘液の性状を変化させることによる精子の子宮内進入の阻止,③着床阻害,などの可能性があることが指摘されている.宗教的な立場から,受精こそ生命誕生の瞬間とするグループなどは,着床阻害を作用機序の一つとするピルを早期人工妊娠中絶薬と批判する.筆者が主導している緊急避妊ネットワークにも,同様な評価をして“刑法の堕胎罪に抵触する不当な行為”という言葉を向けてくることがある.しかし,産科学では「着床をもって妊娠の成立」と定義しており,その意味からは,ピルも緊急避妊薬もあくまでも妊娠の成立を阻止する「避妊」であって,中絶薬ではない.受精はしたものの着床に至らないで月経を迎える女性は少なくないが,これを流産とは決して言わない.
環境問題
ピルの成分の一つであるエチニル-エストラジオール(EE)が内分泌撹乱化学物質,いわゆる「環境ホルモン」の一つとして分類されていることが事実であるとしても,筆者はピルの存在意義を否定するものではない.現在そして未来の住みやすい地球環境をつくっていくことは,私たちの大きな責任であり,豊かさの代償とも言える環境汚染に無関心でいられないのは当然のことだ.しかし,ピルはあくまでも個々の女性が選択して使う避妊薬であり,ダイオキシンのように多数の人間に無差別に影響を与える化学物質ではない.
Copyright © 2003, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.