連載 Health for All―尾身茂WHOをゆく・20
―SARS制圧までの道④―中国とのやりとり
尾身 茂
1
1WHO西太平洋地域事務局
pp.860-861
発行日 2005年11月1日
Published Date 2005/11/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401100187
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重症急性呼吸器感染症(SARS)については,2005年4月号の本欄で述べたように,中国政府から公式な情報が得られないまま,2003年3月上旬から中旬にかけて,ハノイ,香港,シンガポール,トロント,さらには台湾や北京および中国内陸部へと感染が拡大したため,4月2日に香港,中国広東省に対してWHOが発効した渡航延期勧告についての顚末を書いた.このSARSの騒動の中で,国際社会で最も注目を集めたのは中国の対応であったが,今回はその中国政府との緊迫した交渉を中心に,個人的な体験を話そう.
実は,SARSが問題になるかなり以前から,私と中国の当時の張文康衛生相(日本の厚生大臣に相当する)の2人が,2003年3月20日に行われるある式典に香港政府から正式に招待されていた.2人に対し,香港医科大学の名誉特別会員の称号を授与するというのがその目的だった.3月20日が近づいてきた.しかし私は,このSARSの騒動の中,香港の衛生関係者が文字通り忙殺されていることは知っていたし,私のほうも,この大事な時期に,自分の授与式典参加のためマニラを離れることは問題外と思ったので,式典の1週間前に,香港のマーガレット・チャン保健局長(当時)に断りの電話を入れた.しかし彼女は,電話口で「Dr.尾身,とんでもない.授賞式の準備は整っており,絶対来てもらわなくては困る.中国の張衛生相も夫婦で参加することになっている」という(おそらく,「香港に渡航しても安全」ということを示したい政治的な配慮もあったのだと思う).
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