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新型コロナウイルス感染症(coronavirus disease 2019;COVID-19)によるパンデミックから4年が経過し,感染症法上の位置づけは,季節性インフルエンザなどと同じ「5類」に移行した.これにより,法律に基づいた外出自粛の要請などはなくなり,感染対策は個人の判断に委ねられ,医療機関においてもコロナ対策は規制が緩和されてきている.しかしながら,COVID-19の流行も完全に終息したわけではなく,インフルエンザも季節に関係なく蔓延するなど,高齢者にとっては感染の脅威は続き,高齢者施設等においては緊張感を維持した対応が継続されている状況である.そんななかで,2024年度は,診療報酬,介護報酬および障害福祉サービス等報酬が同時に改正される,サービスの提供や評価のあり方が転換する年となる.この改定は,2025年に団塊の世代のすべての人が,75歳以上となることを踏まえ推進されている「地域医療構想」や,その先に訪れる第2次ベビーブーマーが65歳以上となる,2040年を見据えた医療・介護サービスの提供体制を整備していかなければならない重要性から,多方面から大きな関心と期待が寄せられている.この改正では,医療におけるDX化や医師の働き方改革への取り組みにも踏み込んだ内容になっており,このような激動のなか,高齢者ケアの質の維持・向上のために老年看護学会として取り組むべき課題も山積している.医療機関では,医師の働き方改革の影響により,特定医行為という形で看護師の役割拡大が始まっているが,老年看護学の立場からは,医療機関の入院患者の高齢化の進展も著しいことから,高齢者の特徴を理解し,入院中に発生するニーズに適切に対応した質の高い看護が提供されるよう期待したいものである.他方,高齢者施設,特に要介護度の重度化が進行し,終の棲家としての機能をもつ特別養護老人ホームで活動する看護職においては,高齢者のニーズが変化しているにもかかわらず,人員配置の見直しや改正はされていない.その影響はさまざまあるようだ.たとえば,看取りの対象も増え,夜間は看護職が不在となることから,介護スタッフは入所者の身体症状の悪化に不安を抱き,オンコール体制による対応を行っているが,人員不足のため夜間オンコール対応を行った看護師は翌日も通常勤務に従事しており,疲弊しているとの声が多く聞かれる.また,高齢者ケアの質向上の観点からは,口から食べられなくなった場合の栄養補給の方法の選択や実践,意思確認の方法,急変時の判断や対応など,人生最終段階をその人らしく,また家族にとっても悔いの残らない最善の過ごし方を支援するためには現状の体制では限界があると指摘されている.これまで,老年看護学領域を専門とする研究者により,これらの課題については,多くの研究が行われ,一定の成果も出され,本誌はその発信に貢献してきたと思う.しかしながら,行政の会議や現場の方々との話し合いで聴かれる内容から,現場レベルでは,研究の成果が十分に活用されているとはいえない状況であることも認識せざるを得ない.今後は,老年看護学の課題に対して新規性,独創性のある研究に取り組み,新たな成果を創出していくとともに,それらの成果を現場に反映させ,活用していく実装研究への取り組みの重要性を実感している.現場に寄り添った実践方法や職種間での連携やタスクシェアによる効果などが,それぞれの施設に周知,定着され,それらのエビデンスが介護報酬による評価に反映され,すべての高齢者が人生の最終段階までその人らしく過ごせるケアの提供につながることを期待したいと思う.
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