- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
- 参考文献
はじめに
本邦は超高齢社会を迎え,2022年度末には要介護(要支援)認定者が694万人に達し1),2040年には約988万人に達する見込みである2).これに伴い,医療・介護費などの社会保障費が増大しており,制度の持続可能性を保つために社会経済性に配慮して,医療・介護サービス資源を配分する必要がある.
なかでも,地域在住高齢者の転倒は深刻な問題となっている.転倒は骨折や要介護状態の原因となり,健康寿命を縮め,医療・介護費の増加に直結する.また,軽度の転倒であっても転倒恐怖感(fear of falling:FOF)を誘発し,主観的健康感や身体活動の低下を通じて,社会的孤立やさらなる健康悪化を招く.
近年では,65歳以上になっても働き続ける地域在住高齢者が増えており,その労働生産性は若年層を上回る水準にあり,本邦における重要な人的資源と評価されている3).しかし,2023年度の「転倒による骨折等」の労働災害発生率は,60歳以上で特に高かったと報告されており4),職場での転倒災害が社会的課題として問題視されるようになっている.
したがって,高年齢労働者を含む地域在住高齢者に対する転倒予防は,QOLの向上や医療・介護費の抑制といった個人および保健医療上のメリットにとどまらず,高年齢労働者における労働損失の回避や生産性の維持といった,より広範な社会経済的インパクトをも包含している.加えて,本邦では人的資本への投資が政策的にも重視されており,転倒予防はきわめて戦略的価値の高い投資領域と位置づけられる5).
こうした背景を踏まえ,本稿では地域在住高齢者を対象とする転倒予防プログラムの費用効果分析の成果を報告する6).さらに,他の地域高齢者向け予防介入7)との費用対効果比較を通じて,より効果的かつ効率的な転倒予防戦略の再構築案を示す.

Copyright © 2025, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.