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はじめに
脳脊髄液漏出症(cerebrospinal fluid leak:CSFL)の名称が定着し,特発性低髄液圧症候群(spontaneous intracranial hypotension:SIH)はその一型という認識がようやく広がりつつある.歴史的には1980年代後半からのMRI機器の普及に伴って,明確な起立性頭痛,脳MRI画像上のびまん性硬膜増強(diffuse pachymeningeal enhancement:DPE),髄液圧低下が揃った典型的なSIH症例の報告が続いた7,18,33).症例の蓄積とともに非典型例の存在が明らかになり,1999年には有名なMokri分類19)が公表された.Mokri分類はSIHの多様性を示す目的で,頭痛(原著では起立性に限定されていない),脳MRI所見(DPE,脳下垂,硬膜下貯留液),髄液圧低下の組み合わせにより4型に分類したものである.Mokriは髄液量減少を独立変数(independent variable),すなわち病態の本質と考えて脳脊髄液減少症(CSF hypovolemia)の病名が適切とした.臨床症状,髄液圧,画像所見は髄液量減少により決定される従属変数(dependent variable)であり,髄液量減少が高度であるほど特徴的なSIHということである.その後Schievink36)は本質を髄液漏出と想定し,“spontaneous spinal cerebrospinal fluid leak”の概念を提唱した.これは,現在のCSFLの元になる概念である.
一方,本邦では2000年代初頭に交通外傷後低髄液圧症候群(当時)が社会問題化した4,5,9,21,40,43).これらの患者の臨床像,検査所見はSIH患者とかけ離れていたため,治療費〜損害補償を巡る民事訴訟が多発した.問題解決のために組織された厚生労働省研究班(2007〜2018年度)は,これらの患者群を“周辺病態”と名づけ前方視的臨床研究を行った13).病態の本質を髄液漏出と捉え,新たに作成した「脳脊髄液漏出症画像診断基準」により,“周辺病態”の中に多くのCSFL患者を確認した.研究班は硬膜外ブラッドパッチ(EBP)治療の保険収載などの成果を上げ,集大成として2019年に「脳脊髄液漏出症診療指針」14)(以下,診療指針)を編纂した.その後,本邦では「診療指針」に基づく診療が定着し,SIHの枠に囚われないCSFL診療が行われている12,24,26).現在は交通外傷後CSFL患者に加えて小児期の起立性調節障害(orthostatic dysregulation:OD)あるいは不登校児の中にCSFLと診断される例が増えている10,25,27,28).この状況は,SIH中心の診療が続いている海外とは大きく異なっている.本稿では,CSFL研究と診療の現状と最近の進歩,さらに本邦の特殊性について解説する.

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