Japanese
English
- 有料閲覧
- Abstract 文献概要
- 1ページ目 Look Inside
- 参考文献 Reference
- サイト内被引用 Cited by
はじめに
Mokri博士は,低髄液圧症候群と呼ばれていた病態の本質を髄液量減少と考え,脳脊髄液減少症(CSF hypovolemia)の病名を提唱した7).しかし,髄液量減少と髄液圧低下は,髄液漏出に起因する表裏一体の現象である.そして,両者が複合的に作用して,起立性頭痛に代表される多彩な臨床症状,種々の画像所見を呈する(図1)7,14,18).病態の本質を考えれば脳脊髄液漏出症の病名が適切だろうが,低髄液圧症候群,脳脊髄液減少症もすでに広く浸透しており,病名にこだわる必要もないと思われる.1990年代以降,MRIの普及に伴い,明瞭な起立性頭痛,脳MRI上のびまん性硬膜増強,髄液圧低下の揃った特発性低髄液圧症候群(spontaneous intracranial hypotension:SIH)患者の報告が相次いだ.二次的な髄液量減少,髄液圧低下所見が明らかな患者,すなわち髄液漏出量の多い重症例が診断されていたのである.2004年公表の国際頭痛分類第2版(ICHD-2)はその状況を反映し,「15分以内の起立性頭痛」が診断要件とされていた.その後,非典型例,軽症例が認識され,2013年公表の国際頭痛分類第3版β(ICHD-3β)では起立性頭痛自体が診断要件から除かれている2).2007年に活動を開始した厚生労働省研究班は,まず第1弾として「脳脊髄液漏出が確実な症例」の診断基準を作成した16).これまでに多数の脳脊髄液漏出症患者を確認し,現在は「周辺病態」,すなわち非典型例,軽症例をも確実に診断する基準の作成に移っている5).
福山医療センターでは2002年,RI脳槽シンチ(RIC)検査による脳脊髄液漏出症診療を開始,2007年からはCT脊髄造影(CTM)検査の併用(RIC/CTM),2010年からRIC/CTM前後の脊髄MRI検査(下部胸椎以下)を追加,さらに2015年12月以降,MRI撮影範囲を全脊椎に拡大した9〜11).各検査所見,治療成績の対比から,現状ではRIC間接所見(早期膀胱内RI集積,RIクリアランス亢進)の診断感度が最も高いと考えている11).しかし,RIC/CTM検査には,許容範囲ではあるが一定の侵襲性(腰椎穿刺,放射線被曝)があり,MRI主導の脳脊髄液漏出症診断が望ましい.図2,3はその可能性を示す画像である.交通事故など外傷後発症例は,特徴的な画像所見を呈することはまれでありRIC所見に基づいて診断されることが多かった.それらの患者の脊髄MRIを詳細に検討すると,このような頸胸椎移行部〜上部胸椎レベルの硬膜囊背側高信号を高率に認めることが明らかになった.これらの画像は,RIC/CTM時の硬膜外誤注入例と共通点がある(図4).誤注入例ではfloating dural sac sign(FDSS)様に硬膜囊全周に造影剤が広がっているが,背側では硬膜外組織に相当する三角形の充盈欠損がある.この部分は図2,3と同じく,硬膜囊背側硬膜外腔と黄色靭帯の境界面に水成分が流れ込んだものと考えられる.その高信号が硬膜外腔の縁取りをした所見を“fringed epidural space sign:FESS”と名づけ,診断価値を検討してきた.その成果に基づいて報告する.
本稿ではまず脳脊髄液漏出症画像診断法の分類,特性を説明する.次に,特発性低髄液圧症候群(SIH),硬膜穿刺後頭痛(postdural puncture headache:PDPH)患者のデータから,実際の漏出髄液の広がり,画像所見を示し,FESSが髄液漏出患者で高頻度にみられる所見であることを説明する.最後に脳脊髄液漏出症の画像診断の実例を示し,現状でのFESSの有用性,今後の課題について考察する.
Copyright © 2016, MIWA-SHOTEN Ltd., All rights reserved.