特集 いまアップデートしたい 整形外科医のための運動療法新常識
緒言
篠田 裕介
1
Yusuke SHINODA
1
1埼玉医科大学医学部リハビリテーション科
pp.1311
発行日 2025年12月25日
Published Date 2025/12/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.055704330600121311
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これまで運動療法といえば,整形外科疾患や神経疾患の患者,あるいは高血圧・糖尿病・脂質異常症などのメタボリックシンドロームを有する人に対して実施され,筋力や関節可動域,持久力の改善,さらにはカロリー消費による減量を目的とするもの,という考え方が一般的であった.しかし,歴史的にみると,運動や身体活動を治療的・予防的に活用するという発想は古代ギリシア・ローマ時代から存在していた.例えばヒポクラテスは紀元前の時代にすでに,運動・歩行・ランニング・体操などを「傷害や疾患に対する治療手段」として位置づけていたと伝えられている.
近年,運動療法は単なる身体機能の回復や減量の手段ではなく,疾患の治療そのものとして再び注目されている.運動により骨格筋や心筋,脂肪組織,肝臓などから多様なシグナル分子が分泌され,代謝,免疫,神経機能,さらにはがんの進展にも影響を及ぼすことが明らかになってきた.例えば糖尿病においては,運動によるインスリン感受性の改善が多数報告されている.こうしたメカニズムの解明は,運動量・強度・頻度・対象疾患・併用療法などを最適化するための科学的基盤となっている.現在では,がん,腎疾患,肝疾患,精神疾患,認知症など,従来は運動療法の対象と考えられなかった領域にもその有効性を示すエビデンスが蓄積し,適用範囲は大きく拡大している.

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