精神科診断の変化の影響

Impact of Changes in Diagnostic Criteria for Psychiatric Disorders

抄録

　精神科診療において，分析-精神病理学的な理解のうえにあった診断は，病態と一致したものとして位置づけられていた。その後，精神疾患を明確に規定するための指標となる客観的な診断概念が望まれ，医学統計学的に検討できるように，症状に基づき標準化された操作的診断基準に置き換わった。しかしながら，精神疾患の病因は不明であるため，操作的診断基準は，信頼性は高いものの，疾患の妥当性には問題がある。また，操作的診断基準は，症状の数や期間で決定する指標であり，健常者と精神障害者との間に連続性を認めるため，結果として過剰診断を招き，不必要な治療が行われる場合がある。ただし，操作的診断基準は，精神科領域のスティグマを軽減し，治療導入を早め，医療機関での情報共有を容易にするなど精神障害の一般化に役立っている。本稿では，精神科診断について，従来診断から現在の操作的診断に至るまでの変化について概略し，将来の方向性についても考えたい。