Japanese
English
- 有料閲覧
- Abstract 文献概要
- 1ページ目 Look Inside
- 参考文献 Reference
はじめに
精神科医療において現在使用されている精神科疾病分類は,ICD-10(1992年)10)およびDSM-Ⅳ-TR(2000年)2)の2種類あるが,現在これら両者は改訂の時期を迎えている。両者はそれぞれWorld Health Organization(WHO;世界保健機構)およびAmerican Psychiatric Association(APA;米国精神医学会)により,それぞれ独自に発展してきた。ICDは当初,国際的に通用する死因統計を記録するシステムとして出発し,およそ10年ごとの改訂会議を経て現在に至っている。1992年に改訂されたICD-10からは臨床や研究を目的とした診断分類としての役割にも重点が置かれるようになったが,諸障害に関する最新の情報を網羅した理論的なものというよりは,諸学派・諸地域において国際的に受け入れられることを重視する特徴を持っている。一方,DSMは1952年にAPAによって初版が作成され,当初より臨床のための分類であることが明確にされている。主に臨床研究のデータを基に検討されており,1980年に改訂されたDSM-Ⅲでは多軸評価システムが導入され,病因論からは中立的立場である操作的診断基準が全面的に採用されている1)。DSM-Ⅲ以降はICDとの互換性が考慮されてはいるが,臨床現場においてはこれら2種類の疾病分類が存在していることに対する戸惑いは依然として存在しているといえよう。
APAはDSM-Ⅴに向けて,2002年にA Research Agenda for DSM-Ⅴをすでに出版しており6),2007年6月にDSM-Ⅴ task forceが立ち上げられている。WHOでもICD精神障害アドバイサリーグループが2007年1月に設立されており,次なる改訂版としてICD-11の作成が現在検討されている。その一環として,2008年2月に東京において「精神科診断と分類の最前線―ICD-11に向けて―」と題した国際シンポジウムが開催された(会長:東京医科大学・飯森眞喜雄教授,都立松沢病院:岡崎祐士院長,元世界精神医学会会長:Norman Sartorius氏の3名)。シンポジストとしてShekhar Saxena(WHO),Wiliam E. Narrow(APA),その他,Graham Mellsop(New Zealand),Wolfgang Gaebel(Germany),David Goldberg(UK)ら各国から十数名のエキスパートが招聘され日本の専門家を交えて活発な議論がなされた。そこでは各国での診断分類の使用経験や疾患の新しい概念,診断基準に与える文化の役割などについて話し合われた。それらの議題の1つとして,「実際の利用者である精神科医が疾病分類に何を求め,何を期待しているか?」という重要なテーマに関するアンケート調査結果がNew ZealandのMellsopによって報告された7)。このような調査がこれまで欠如していたことから,彼はアンケート調査をデザインし,日本も共同調査の依頼を受けて,すでに調査を終えている。両国の結果の詳細については過去に本誌において報告しているので,それを参照していただきたい8)。注目すべきは,日本とNew ZealandではDSMとICDの使用のされ方が大きく異なっていたことである。すなわち,日本においてはDSMとICDが大差なく使用されていたのに対し,New Zealandにおいては,DSMが普及している一方でICDはほとんど使用されていなかった。他にも疾病分類に対する両国の考え方の差異がいくつか指摘されているが,今後の疾病分類改訂作業にあたり,より多くの国のデータを集積すべきであることが提言されている。
今回我々はこの調査を発展すべく,アジア諸国での相違点や類似点を検討するため,中国,韓国,台湾に調査協力を依頼し,同じアンケート調査を実施した。日本を含めたアジア4か国において行われた精神科疾病分類に関するアンケート調査の結果を比較検討し,報告する。
Copyright © 2009, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.