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1990年,世界ではじめての遺伝子治療は米国で実施されました.Adenosine deaminase(ADA)欠損症の4歳女児に対する治療です.ADA欠損症は常染色体劣性遺伝の免疫不全症で,1995年には本邦でも同症の4歳男児に対して治療が実施されました(北海道大学).90年代当時に大学院生としてがん遺伝子の研究に没頭していた私たちにとってこれはまさに福音で,自分たちが検出するp53のmutationを標的とした治療ががん抑制遺伝子の正常化に働きかけ,次々とがん患者さんが治癒する未来を夢想しました.しかしながらがんの根源的なrobustnessは無情なほど強大であり,その後のさまざまながんに対する遺伝子治療の試みも明らかな有効性を示すことはありませんでした.さらに,遺伝子治療による死亡事故(1999年,Gelsinger事件)や白血病の発症(2002年,X-SCID)が発生し,ついに遺伝子治療が普遍的ながん治療の主力となる時代は到来しませんでした.
Matrix metalloproteinase(MMP)を標的としたがん治療もまた,私と同世代の(元)研究者にとって淡い郷愁を感じる話題であろうかと思います.MMPは細胞外マトリクスを分解する亜鉛依存性endopeptidaseでMMP-1からMMP-28までをファミリーに有し,種々のがんの悪性度や臨床病期とも相関するなど,新規治療への有力なアプローチと期待されました.多くのMMP阻害薬が開発されましたが,臨床試験では多様な有害事象が確認され,〔1999年Cancer Science誌(当時はJJCR)の表紙を飾った拙著を含む多くのグループの研究成果とは裏腹に〕実臨床に至らなかった経緯があります.これらの研究は形を変えて他疾患を含む新規診断法や創薬につながりはしましたが,皆が待望するがんの克服には至りませんでした.
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