巻頭言
車椅子は空を飛べる
出田 良輔
1
1千葉労災病院中央リハビリテーション部
pp.1191
発行日 2025年12月10日
Published Date 2025/12/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.038698220530121191
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3年前,私が新人のころに出会った頸髄損傷による四肢完全麻痺の患者さんから不意に連絡をいただきました.「パラリンピックをめざしているから海外遠征に帯同してほしい」という内容でした.各方面への調整が必要でお返事に時間を要しましたが,心の中ではYESと即答していました(まさに「40秒で仕度しな!」です).彼は患者から選手へ,生活でなく挑戦,贅沢でなく洗練へと価値観がまったく変わっていました.退院されたあと,一体彼に何があったのかと,好奇心が搔き立てられました.3か月後,私はヘルシンキ・ヴァンター国際空港に彼と降り立つことになります.
私は25年間,脊椎脊髄を専門に治療するセンターでリハビリテーションに従事し,脊髄損傷後に重篤な麻痺を呈した患者さんに数多く出会いました.彼らが自分の限界を抱えながら,突然訪れた障害を抱えながらも,なお前へ進んでいかなければならない姿を見てきました.今,自分自身が挑戦とは対極にある立場となり,若いころとは異なる視点でリハビリテーション治療を俯瞰して見るようになり,何事にも「最適解」を探そうとする癖がついてきました.患者さんの満足度,部署の収支,雰囲気の醸成,部署を超えた調整——すべてを天秤にかけ,角を取りつつ最善の道を模索しなければなりません.しかし,視点を変えると気づくこともあります.リスク・ゼロは必ずしも最適解を意味しないのではないのか.リスクを消し去ることに必死になると,挑戦の芽まで摘み取ってしまわないか.毎日,岐路に立たされ,選択肢,葛藤にぶつかります.
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