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はじめに
未曾有の高齢化時代にあって,手術を控えた患者の筋肉量の減少と身体機能の低下はごく一般的な問題となっている.特に高齢のがん患者の場合,筋肉量の減少と筋力・身体機能の低下を特徴とするサルコペニアを合併することが多い.がんの手術では,術前にサルコペニアがあると,術後合併症のリスクが増え,短期成績のみならず長期予後が悪化することが研究より明らかとなっている.一方で,サルコペニアを抱えたがん患者に対する術前の対策はいまだに確立されていない.
患者の身体機能や栄養状態を改善すべく術前より開始するリハビリテーションのことをプレハビリテーション(prehabilitation)と呼び,欧米を中心にその有効性が報告されつつある.プレハビリテーションは,運動(有酸素運動とレジスタンス運動),栄養指導,および精神的なケアを中心とした集学的アプローチであり,短期間でも実施することで術後合併症の減少,入院日数の短縮,および生存率の改善につながったとの報告が増えている.2025年にBritish Medical Journal(BMJ)誌に報告されたプレハビリテーションの有効性についてのメタアナリシスでは,(エビデンスの確実性は低いものの)通常のケアと比較して,運動を主体とするプレハビリテーションの介入によって,合併症が減少し,入院期間が短縮する可能性が高い,と結論づけている1).
当然のことであるが,術後合併症が減り,入院日数が短縮すれば,医療費削減というメリットがある.したがって,日本でも一部の施設では導入しようとする試みがある.
一方で,理想的なプレハビリテーションには,術前数週間の外来診療(および自宅での患者の自主的な取り組み),背景が異なる患者に応じた個別のアプローチ,医師のみならず多職種の介入および連携が必要となることより,プログラムとしての実行可能性,費用対効果や医療者側のマンパワーの問題などがある.
本稿では,プレハビリテーションの経済的側面と戦略について考察し,筆者らの取り組みを紹介しながらプレハビリテーションの普及についての課題と展望を述べる.

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