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はじめに
白内障手術は眼科手術のなかで最も多く行われ,手術に携わる眼科医の多くにとって馴染みのある手術である。一方で,術者も熟達するにつれ,己の技量を過信し,慢心が生じることがありうる。
今回は白内障手術時に稀に遭遇することがありうるピットフォールの1つとして,虹彩脱出を取り上げたい。
虹彩脱出を生じやすい状況としては,術中の早期穿孔,術中虹彩緊張低下症(intraoperative floppy iris syndrome:IFIS),浅前房,短眼軸長眼などが挙げられる。
強角膜切開で行う場合には,強膜と角膜の曲率カーブが異なるため,創口トンネル作成時に意図せず早期穿孔が生じてしまう場合が稀にある1)。角膜切開や経結膜強角膜一面切開であっても,メスを進める角度によってはトンネル長が通常よりも短くなりすぎることがありうる。
軽度の早期穿孔の場合,低灌流圧で手術を続行すれば問題なく完遂できるケースもある。しかし,トンネル長が短くなり,創口出口と虹彩との距離が極端に近い場合,ハイドロダイセクションの際などに前房内圧が高まると,創口から容易に虹彩脱出が生じうる(IFISの場合は,事前に前立腺肥大の治療薬などのリスク因子を把握して対応策をとっておけばあまり心配はないが,未対策の場合は前房内圧上昇時に虹彩脱出が生じることがある)。
また狭隅角・浅前房,あるいは短眼軸長眼などでは,慎重になり前房を深くしようと粘弾性物質を多く入れすぎてしまうと,虹彩脱出が生じうる。
問題が生じたときに術者がどのような選択を行うかは,そのつど短い時間で判断が求められるが,選択を間違えると術後の炎症や視機能への悪影響が長引くことになりかねない。そんなときに注意すべきポイントを,具体的な症例を提示して解説したい。

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