連載 ヒトとモノからみる公衆衛生史SEASON 2・2
職業としての自立を切り拓く—朝日新聞事業団公衆衛生訪問婦協会の活動
山下 麻衣
1
1同志社大学商学部
pp.739-742
発行日 2025年8月15日
Published Date 2025/8/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.036851870890080739
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誇りと憤慨
そう。癪にさわるのは、私は白人と違って月給も安いの。私が75ドルだとしたら、白人は100ドルくらいとってたわねえ。うすうす友達にきいたところによると、日本人は生活程度が低いから、というわけ。だから私、どんな家に生まれて、どんな仕事をしてきたか聞いてみい! あんた達よりゃよっぽどいい暮しをしてるんだからと言ってやったことがある。主人は笑うんだけど、どこまでも負けん気なのね1)。
発言の主は保良せきで、1924年に日本人として初めて米国で公認看護婦(registered nurse: RN)の資格を取得した女性であった。帰国後は公衆衛生看護の実践に携わり、戦後には厚生省医務局看護課課長に就任、幼稚園を経営するなど、自立して働く女性であった。この発言は米国で生活する中での人種差別に対する強い不満と同時に、自らの生い立ちや仕事への誇りを示している。

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