連載 All about 日本のワクチン・29
腸チフスワクチン
中野 貴司
1
1川崎医科大学小児科学
pp.463-466
発行日 2025年5月15日
Published Date 2025/5/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.036851870890050463
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1.当該疾患の発生動向
腸チフスは、ヒトのみに感染するチフス菌(Salmonella enterica subsp. enterica serovar Typhi)による全身性感染症であり、急性胃腸炎が主症状の一般のサルモネラ感染症とは区別される。1999年4月に施行された感染症法で腸チフスは二類感染症に分類されていたが、2007年4月施行の法改正により類型の見直しで三類感染症に移行した。患者、無症状病原体保有者(保菌者)、および死亡者(死亡疑い者を含む)を診断した医師は、直ちに最寄りの保健所を通じて都道府県知事への届出が義務付けられている。
世界の年間患者数は2,690万人と推計され1)、衛生水準の高くない国でまん延している。特に南アジアや東南アジアでの罹患率は高く、中南米やアフリカでも多くの患者が発生している。先進国での発生は散発的で、多くは流行地域への渡航者による輸入事例である。日本では近年、年間30例前後の発生で推移し、70〜90%程度が輸入事例である1)。しかし昨今のグローバル化に伴い、日本でも海外渡航歴のない患者の増加や国内での集団発生が報告され、今後の発生動向に注意が必要である。

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