連載 ヒトとモノからみる公衆衛生史intermission・4
北里柴三郎と近代日本温泉史
川端 美季
1
1立命館大学 衣笠総合研究機構 生存学研究所
pp.275-278
発行日 2025年3月15日
Published Date 2025/3/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.036851870890030275
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はじめに
北里柴三郎はペスト菌を発見し、破傷風菌の純粋培養など近代日本の細菌学の領域や感染症研究に多大な貢献をした人物として知られている。一方で、「北里文庫」などの図書館の設立や伊東に居住する子どもたちが通学する橋の建設など、社会活動にも力を入れたことについても、近年クローズアップされている。そのうちの一つとして北里が設立した温泉も挙げられるだろう。
北里が千円札の肖像となることが決まった際に、かつて伊東の別邸内に温泉をつくったということが関連ニュースとしてウェブに掲載された1) 2)。北里が伊東に設けた風呂、それは千人も入る大浴場であったという。なぜ北里はそのような風呂を設けるに至ったのだろうか。今回は、日本近代の温泉政策を含め、当時の温泉をめぐる状況を含めて、歴史を振り返ってみたい。
古くからある日本の温泉は、近代以降どのように認識され利用されてきたのか。北里が近代に温泉を設けたことも、日本の歴史的な温泉観の一部に位置付けられる。

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