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はじめに
近年の肺癌治療の進歩はめざましい.ドライバー遺伝子を狙い撃つ分子標的薬が続々と登場し,現在のところEGFR,ALK,ROS1,BRAF,MET,RET,KRAS,NTRKをターゲットとした分子標的薬が上市されている.このような種々のドライバー遺伝子異常を標的とする分子標的薬開発に伴い,癌の遺伝子異常に合わせて治療薬を選択する精密医療(precision medicine)が肺癌診療で実装され,患者予後は劇的に改善してきている.
このような状況で,これまでの単一遺伝子検査を積み上げる検査法は限界を迎えており,遺伝子変異の一括検査の必要性がますます高まってきている.次世代シークエンス技術によるマルチコンパニオン検査として,ライフテクノロジーズジャパン社の“オンコマインTM Dx Target Test マルチ CDx システム”が2019年6月に保険適用された.オンコマイン検査では,大きなサイズの生検組織が必要,30%以上の腫瘍細胞含有率が推奨されることから,多くの検体が対象外となる,病理部でのスクリーニング作業の負担が大きい,検体受領から結果返却までの日数(turn-around time:TAT)が長い,一部の変異検出結果が“no call”あるいは“failure”としてレポートされるケースがある,など,多くの課題が残されている.また,試薬の安定供給に問題が起こり,長期間の検査の受け入れ遅延も,過去に生じた.
2021年6月には,国内で第二のマルチコンパニオン検査として,理研ジェネシス社から,“AmoyDx®肺癌マルチ遺伝子PCRパネル”が上市され,TATが4〜7日と,課題の1つであったTATの大幅な短縮が達成されている.一方で,従来と同等の核酸量を必要とする点やバリアントのカバー率,バリアント情報が分類できずレポートされないなど,PCR(polymerase chain reaction)ベース手法の限界が指摘されている.
このような課題を克服し,日本の臨床現場で使いやすい国産のマルチパネル検査として,次世代シークエンス技術を用いた“肺がんコンパクトパネル® Dx マルチコンパニオン診断システム”(以下,肺がんコンパクトパネル)が開発された(大阪国際がんセンターと奈良先端科学技術大学院大学の共同開発).肺がんコンパクトパネルは,肺癌に特化し,創薬可能な遺伝子変異にターゲットを絞り込むことで,1%程度までの検出感度を達成し,細胞診にも適用可能なパネル解析技術である.DNAチップ研究所が製品開発を進め,聖マリアンナ医科大学との共同研究で細胞検体の取り扱いや運用も検証しながら,国産の肺癌コンパニオンマルチパネル検査として,2023年1月に発売された.
肺がんコンパクトパネルでは,肺癌に特化し,創薬可能な遺伝子に対象を絞ったコンパクト設計により,ターゲットのアンプリコンの最適化により十分なリード深度が確保され,それにより1%の最小検出感度を達成している.また,クオリティの悪い核酸を対象とした検査でも検査が成功するようなパネル設計上の工夫がなされているため,検査成功率の高さもメリットとなっている.壊死やホルマリン固定パラフィン包埋(formalin fixed paraffin embedded:FFPE)標本作製時の固定状況により核酸のクオリティが低下する(DNA/RNAの断片化,損傷)ことが知られているが,低クオリティの検体にも再現性の高い検査結果を算出するよう,頑健なパネル設計となっている.肺がんコンパクトパネルの特長を図1にまとめた.

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