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はじめに
看護の現場で働いていると、ふとした瞬間に「この仕事は美しい」と感じることがあります。例えば、夜勤の早朝、静まり返った病棟で患者さんの寝顔をそっと見守る時。ベッドサイドで手を握り、「今日は体調がよさそうですね」と声をかける時。そこには、誰に見せるためではない、確かに存在する美しさがあります。
一方で、現代の医療現場では「効率」や「生産性」「コスト」といった言葉が強く求められるようになりました。看護師の働きは数値化され、標準化され、忙しさの中で患者の表情や声の調子に目を向ける余裕がなくなっている場面も少なくありません。「ケアの美しさ」よりも「手技の正確さ」だけが重視され、長時間勤務や夜勤の連続の中で、身だしなみを整えることさえ後回しになってしまう現実があります。
看護教育に携わる中で、私は実習を終えた学生から「看護師さんたちがあまりに忙しそうで、声をかけられませんでした」という言葉を何度も聞いてきました。その言葉には、現場への尊敬と同時に、どこか言葉にできない寂しさが感じられます。本来、看護は人と人とが出会い、心を通わせる営みです。髪をとかし、寝具を整え、身体を清め、静かに寄り添う。そうした1つ1つの行為の中に、人間の尊厳を守り、心身の調和を支える力があります。
このような「ケアの中にある美しさ」をもう一度、学問として、教育として、実践として捉え直すことはできないだろうか。その問いから、私は「美容看護学(Aesthetic Nursing Science)」という考え方にたどり着きました。ここでいう美容とは、化粧や整形といった外見の美を指すものではありません。人が尊厳を持って生きようとする姿そのものに宿る美を意味しています。他者を思いやり、自分自身を整えながら生きる姿の中に、看護の美しさは現れます。
本稿では、美容看護学の学問的な成立条件を整理し、海外の理論や実践の動向と、日本の文化的背景を踏まえながら、その意義と可能性について考えていきます。

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