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はじめに
高度医療の進展、地域医療構想など社会からの看護へのニーズが多様化する中で、複雑で解決困難な看護の問題を有する個人、家族および集団に対して、病院内外の連携のみならず多職種との連携・協働を行い、卓越した看護を提供することが求められている。加えて、ウェルビーイングの追求という側面から、個々人への健康増進に向けて看護師に期待される役割や能力も深いものとなっている。求められる役割や能力の変化に応じ、それらを身につけるための看護師養成に向けたカリキュラム編成の在り方も必然的に問われることとなる。
本稿では、この点についてアメリカの教育学の議論に着目して検討してみたい。ここで、アメリカに着目する理由として立石1)が指摘するように、日本の看護教育のカリキュラムはアメリカの教育学者であるタイラー(Tyler, R.)から弟子のブルーム(Bloom, B.)へとつながる教育学の潮流に学びながら編成されてきたことが挙げられる。本稿では、この流れの中でも、特にアメリカの看護教育にも影響を与えてきた「概念に基づくカリキュラム(Concept-Based Curriculum:CBC)」の議論に着目する。日本では「概念に基づくカリキュラムと指導」の設計と実施を支援するアメリカの教育コンサルタントであるエリクソン(Erickson, H.L.)らによって提唱されているCBCが注目され始めている。津波古2)によれば、このエリクソンの流れが1990年代から看護教育の文脈に流入し、2000年代には、後述するニュー・メキシコ大学の看護教育の研究者であるギデンズ(Giddens, J.F.)のCBCが登場する。
教育学の文脈では、エリクソンのCBCが提起される以前、具体的には1950年代から学問の鍵概念(key concept)や構造(structure)を軸とするカリキュラム編成の方策が検討され、その後も1つの潮流として脈々と継承されてきた。本稿ではまず、看護教育におけるCBCの議論を確認する。次に、教育学におけるCBCに関する理論の史的展開に言及する。最後に、これらを踏まえて、看護の概念に基づくカリキュラム編成への示唆について検討する。

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