BRAIN and NERVE-神経研究の進歩 69巻2号 (2017年2月)

特集 Stroke-Like Diseases—鑑別時に注意を要する5病態

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特集の意図

脳卒中様の病態を示すが,脳卒中とは異なる疾患がある。これらは脳卒中と同様の処置が禁忌になることもあり,鑑別に注意を要する。本特集では,低血糖性片麻痺,MELAS,脊髄硬膜外血腫,PRES,特発性低髄液症という代表的な5疾患を挙げて脳卒中との類似点や相違点,誤診しないためのポイントなどをまとめる。

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低血糖性片麻痺は血糖値低下によって片麻痺をきたす病態で,MRI拡散強調画像で内包後脚に高信号が出現することから,急性期脳梗塞との鑑別が問題となる。低血糖では,内包を含めた白質障害が重要であることが,近年明らかになりつつある。しかしながら,脳全体のグルコース不足にもかかわらず症状が片麻痺となる理由や,左片麻痺と比較して右片麻痺の報告が多い理由については,いまだ明らかでない。

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脳卒中は急性に神経症候を呈する疾患であるが,同様の臨床像を呈する疾患がある。ミトコンドリア病はミトコンドリアの代謝障害により細胞へのエネルギー供給に障害を起こす疾患で,詳細な発症機序や治療法についての研究が進められている。MELASはそのうちの1疾患であり,脳梗塞に類似する発症様式や神経症候,画像所見を呈することから,脳卒中診療の際に考慮すべき疾患の1つである。

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脊髄硬膜外血腫の臨床を概説し,自験例を含め特徴を述べた。本症と脳卒中の類似点を議論した論文をレビューし問題点を整理した。本症は初診時に片麻痺を呈する例が多く,脳卒中と誤診しやすく,実際に抗血栓療法を受けた症例も多数報告されている。t-PA投与の適応は時間制限があるため,時間を急ぐあまり本症を見落とす危険がある。特徴である頸部の疼痛やブラウン-セカール症候群,ホルネル症候群などに注目することが診断に重要である。

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Posterior reversible encephalopathy syndromeは急激な血圧上昇・変動,腎不全,輸血,免疫抑制薬・抗癌薬使用,自己免疫疾患,子癇,敗血症などを背景に急性発症する神経疾患で,後頭葉・頭頂葉の血管性浮腫を特徴とする臨床的症候群である。脳出血や脳梗塞様所見を示す例もあり,脳卒中との鑑別が必要である。血管内皮障害が関与する病態を理解した早期診断・治療で改善が期待できる。

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特発性低髄液症は突発性にあるいは数分から数時間以内に激しい頭痛を呈する雷鳴頭痛の1つで,くも膜下出血などの脳血管障害との鑑別を要する。本症は早期診断・治療により予後良好例が多いが,遷延・慢性例では多彩な症状で診断困難となり,ひいては重篤な合併症あるいは不幸な転帰をたどる。自験例を提示し本症の多彩な一面を示すとともに,脳脊髄液吸収路の免疫組織化学染色と画像所見との関連について検討した。

総説

てんかんとスポーツ 辻 貞俊
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てんかんを持つ人々の身体運動やスポーツ活動は発作誘発の危険性,外傷リスク,過保護などにより制限されていたが,近年は制限することによる不利益が問題となってきた。運動は,発作誘発リスクより,発作抑制などの陽性効果が見込まれ,安全性の高い陸上スポーツや身体運動は積極的に参加することが奨励されている。国際抗てんかん連盟は,スポーツ参加に関して,運転免許取得時の法規制の適用を提案し,危険度を3グループに分類し,安全なスポーツ活動参加を促している。

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現在パーキンソン病治療は対症療法が主体であるが,近年の疾患修飾治療薬の開発は目覚ましいものがある。パーキンソン病発症,病変拡大に関与しているαシヌクレインに対する免疫治療の臨床試験も開始されている。本論では現在進行中のαシヌクレイン免疫治療,遺伝子治療,蛋白質注入療法,細胞移植療法などのパーキンソン病疾患修飾治療について解説する。

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症例は28歳女性。てんかん発症は19歳。頭部MRIで右傍シルヴィウス裂に多小脳回を認めた。発作症状は,体性感覚前兆,意識減損発作,健忘発作など多彩であった。家族より,寝言が多い翌日は発作が増加する,との病歴が聴取された。長時間ビデオ脳波モニタリングにより「寝言」は右半球性起始のてんかん発作と判明した。医療者は「寝言」が発作症状である可能性を念頭に置き,積極的に病的な「寝言」の存在を聴取する必要がある。

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症例は63歳の男性。一過性吃逆の後,味覚障害が出現し,MRIで延髄孤束核の信号変化が確認され,抗体価指数から無疱疹性の水痘-帯状疱疹ウイルス(VZV)感染と診断した。味覚検査で右優位に両側鼓索神経,舌咽神経,大錐体神経領域の障害が確認された。MRIで孤束核の頭・尾側全体に信号変化,第Ⅸ,Ⅹ脳神経の造影効果も認めた。味覚異常を呈するVZV感染は非常に稀であるが,特発性の味覚異常の症例に本症が混在している可能性がある。

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 DIANとは「dominantly inherited Alzheimer network」の略称で,大意としては優性遺伝性のアルツハイマー病の親を持つ子たちを対象とした研究ネットワークである。本研究ではそれらの人たちに発症前段階から登録してもらい,種々のバイオマーカーを計測し,発症までの時間とそれらのバイオマーカーの変化を比較検討することにより正確な病態を把握することを目的としている。現時点までにワシントン大学で行われているDIAN観察研究には遺伝子変異を有するキャリアが262名,非キャリアが168名登録されている。また本研究には米国国内の8つの施設のほか,英国,オーストラリア,ドイツ,アルゼンチンの施設に加え,2016年から日本も参加し,現時点で世界から合計16の研究機関が参加している。2016年から本研究の研究責任者はワシントン大学のモリス教授からベイトマン教授に交代している。日本においても2014年からDIAN-J(DIAN-Japan)研究の着手が厚生労働省で認可され,2015年より日本医療開発研究機構(AMED)研究としてスタートした。

 このDIAN研究に参加する被験者たちは,自分が将来アルツハイマー病を発症するリスクを50%の確率で有している。そのため将来への不安や他人に言えない悩みや戸惑いなどに苦しんだり,また親が病気のために生じる困難に直面したりしながら生活し,日々さまざまな問題を抱えている。DIAN family conferenceは,そのような家族がお互いの気持ちを話したり,病気のことを相談したり,主治医には聞けないような質問など,さまざまな情報を提供・共有したりしてお互いを勇気づけ,励まし合う交流の場として,年に1回全米各地からその年のAAIC(Alzheimer's Association International Conference)に合わせて招待され集まる会合である。開催実行責任者は,DIAN研究を主催しているベイトマン教授である。

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 2016年10月27〜29日,タイ王国バンコクで開催されたPACTRIMS(The 9th Congress of the Pan-Asian Committee for Treatment and Research in Multiple Sclerosis)2016に参加しました。10月13日にプミポン・アドゥンヤデート国王陛下が崩御したばかりのタイ国民の方々には困難な時期でしたが,Local Organising ChairmanのNaraporn Prayoonwiwat氏のご尽力もあり,予定どおり開催されました。タイ王室,王国政府および国民の皆様に哀悼の意を表し,ここにその学会印象記を記させていただきます。

 PACTRIMSは,多発性硬化症(multiple sclerosis:MS)とその類縁中枢神経炎症性疾患の病態と治療に関するアジア太平洋地域における研究を促進することを目的として,ヨーロッパにおけるECTRIMS,北米地域のACTRIMS,ラテンアメリカ地域のLACTRIMSに次いで,2007年にMS Forumから発展して設立された学会です。筆者は2年前に台湾の台北で開催された第7回PACTRIMS以来の2回目の参加でした。今回の会場は,バンコク市内を流れるチャオプラヤ河畔にあるMillenium Hilton Hotelで,2日目の一部を除いて,3つの大型スクリーンが3つ並ぶ1つの大きな会場でアジア太平洋各国からの研究者や欧米の著名な研究者が皆同じセッションに参加しました(写真1)。

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バックナンバーのご案内

次号予告

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 今月の表紙は,「行商人のチック(離職後多角形性攣縮)」というユニークなタイトルのついた論文1)の症例写真です。どのような症候を示したのでしょうか。

「読者からの手紙」募集

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 今回は近年爆発的に増加しているオープンアクセスジャーナル(open access journal:OAJ)について考えてみたい。OAJのパイオニアであるPLOS ONE誌は2006年にPublic Library of Science(PLOS)より刊行された。発刊時のコンセプトは「おおむね方法論が正しければ掲載し,その科学性は出版後の引用回数で評価される」である。従来型の購読料を要する雑誌と異なり,OAJはウェブ上で自由に閲覧でき,出版のための費用は論文の著者が支払う投稿料(Article Processing Chargeと称される)によって賄われる。すなわち読者は無料で論文を読むことができる。現在PLOS ONEの採択率は70%,年間掲載論文数は3万編を超えている(世界第一位)! 2009年にインパクトファクターの対象となり以後3.5〜4.0で経過している。

 OAJの問題点を挙げる前に,従来型の出版社との契約料が高騰していることを述べておく。大手の国際的出版社としてElsevier,Nature Publishing Group,Springer社などがあるが,筆者の所属する大学で支払う年間の契約料は各社を合計すると約3億円(!)である。検索した論文の本文をウェブ上で直接入手するためには購読契約を結んでおく必要がある。この購読料は年々値上がりしており,これに対して研究機関が抗議し是正することはまったくできない。さらに消費税が5%から8%に上がった際に,購読料は9,000万円の増額になった。この大手出版社のやり方に研究機関は怒りと,絶望感さえ抱いている。

基本情報

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BRAIN and NERVE-神経研究の進歩
69巻2号 (2017年2月)
電子版ISSN:1344-8129 印刷版ISSN:1881-6096 医学書院

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