BRAIN and NERVE 67巻5号 (2015年5月)

特集 NCSE(非痙攣性てんかん重積状態)

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特集の意図

NCSEは,シャルコーの報告した症例にもみられるといわれ,決して新しい病態ではないが,現在は神経救急の領域から注目が集まっている。定義と分類が未確定であり,認知度は低いが,症例数が多く,また治療し得ることから,NCSEの存在を少しでも多くの人に知ってもらうべく本特集を企画した。

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NCSEとは

河村 本日は,非痙攣性てんかん重積状態(nonconvulsive status epilepticus:NCSE)について,井上有史先生,永山正雄先生にお話を伺いたいと思います。

 まず,NCSEというのは一体何なのでしょうか。またなぜいま注目が集まっているのか。そのあたりから話を進めて行きたいと思います。

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本稿では,非痙攣性てんかん重積状態(NCSE)の臨床,研究上の重要な諸問題として,脳波異常の範疇,antiepileptic drug-responsive neurological deficit(ADND),malignant and critical NCSE,てんかん関連臓器機能障害(Epi-ROD),リアルタイム・ニューロモニタリング,脳神経系包括的評価スコアNeurocritical Score(Inte-grated Scale)などを取り上げ,best available evidenceを踏まえて最近の進歩をまとめる。

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日本は認知症患者数が増加しており,また高齢者てんかん患者数も増加している。当院神経内科に入院したてんかん患者を調査したところ,高齢者でてんかん発症率が高く,また基礎疾患として認知症を有している患者が多かった。認知症のてんかん有病率はさまざまだが,高次脳機能障害の原因がてんかんのこともある。てんかんの症状が認知症と勘違いされることもあるので,てんかんと認知症との関連,またそれらの傾向や特徴を理解することが大切である。

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神経救急において,てんかん重積状態は重要な病態であり,2010年に発表された「神経蘇生ガイドライン」の中で大きく取り上げられている。全身痙攣性てんかん重積は痙攣発作が持続しているため容易に認識されるが,非痙攣性てんかん重積の場合は脳波でしか確定診断が行えないため,診断が遅れる場合がある。神経救急の現場において,非痙攣性てんかん重積の早期診断・治療開始に脳波検査の導入は不可欠である。

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近年欧米では神経救急の現場で長時間脳波を測定するようになった。その目的は非痙攣性てんかん重積状態(NCSE)の検出である。実際,NCSE例の脳波を測定するとその波形が多彩であるのがわかる。米国臨床神経生理学会救急脳波分類では,局在に応じ片側性,全般性,両側独立性,多焦点性と分類し,波形は周期性,律動性,棘徐波と分類している。どの脳波パターンをNCSEとするかについては,いまだ明白な基準がないのが現状であるが,時間的・空間的に波形が変化することが診断上重要である。

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 環状20番染色体てんかん症候群は非常に難治性のてんかん症候群であり,特徴的な症候学と脳波所見を持つ。発作は通常小児期5〜6歳に発症し,最も多いのは非痙攣性てんかん重積で,意識不鮮明状態を呈し脳波上しばしば遷延性高振幅徐波群発に鋭波が混入する。この発作に加え認知機能低下,行動異常などがみられる。また,外表奇形はほとんどみられず,あってもわずかである。このように臨床像が多様であり,また顔貌奇形がないため染色体診断が一般に遅れる。小児期発症の原因不明非痙攣性てんかん重積ではGバンド染色体検査が必須である。

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記憶はどう保存されて,どう引き出されるのか。これは誰もが抱きうる疑問である。われわれは日々新しい記憶を蓄積させながら,一方で,古い記憶を思い出す。一見,当たり前のように思われるが,われわれの脳はこの過程をどのようにして実現しているのだろうか。この現象の実態に迫る数々の研究がなされている。本稿では,記憶が蓄えられるメカニズムについて,歴史的な背景から最新の知見に至るまで述べていきたい。

発汗の神経学 朝比奈 正人
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ヒトの発汗は,その機能から温熱性発汗,精神性発汗,味覚性発汗に分類され,これらの発汗の発現には中枢および末梢神経のさまざまな部位が関与している。視点を変えれば,発汗の神経支配を理解し,臨床的に発汗機能を評価することは,神経病変の部位・高位診断に役立つことになる。さらに個々の疾患は,疾患に特徴的な発汗異常を示すことがある。本稿では発汗の解剖,生理,症候学および個々の神経疾患における発汗異常の特徴について述べる。

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脳脊髄液生理学の教義となっているbulk flow説「脳脊髄液は脈絡叢で産生され一方向に流れて,頭頂部のくも膜顆粒から吸収される」の誤謬が近年指摘されており,その再考が必要である。脳脊髄液と脳間質液には自由な水交換があり,一括して脳細胞外液と捉えるべきである。本稿では,脳細胞外液の産生・吸収に関して,従来の仮説の問題点と新しい考え方(毛細血管説,脳リンパ排液経路,脳脊髄液は循環しない)を概説する。

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めまいを主訴とする交通外傷性脳脊髄液減少症14例において神経耳科学的検討,頭部MRI検査を行い健常者と比較した。重心動揺検査では,総軌跡長および外周面積が患者群で有意に増大していた。また,患者5例に行った眼振図検査では,視運動性眼振の最大緩徐相速度,総眼振数および視運動性後眼振の最大緩徐相速度が健常者と比べ有意な低下を認めた。MRIでは小脳・脳幹の下垂・下方偏倚を認めた。本症におけるめまいは,機械的圧排による小脳-脳幹機能障害の関与が推察された。

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症例は37歳男性。精神症状,構音障害,四肢ジストニア,腱反射亢進,カイザー・フライシャー角膜輪を呈し,検査所見では,血清銅およびセルロプラスミン低値,尿中銅排泄増加が認められた。頭部MRI T2強調画像では,被殻,淡蒼球,視床,脳幹の左右対称性の高信号域が認められ,ウィルソン病と診断された。塩酸トリエンチン,酢酸亜鉛を用いて治療が開始され,臨床症状は治療開始4カ月後から次第に改善傾向を示した。症状の改善に伴い,MRI上のT2強調画像高信号域の消失が観察された。一方,大脳基底核のT2強調画像低信号域は残存し,むしろ拡大傾向を認めた。経時的なMRIの推移を提示し,異常信号の性質について議論を加えた。

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症例提示1

臨床医(桑原) 現在,私は東京医科歯科大学に在籍しておりますが,東京都立墨東病院に勤務していたときに経験した症例を発表させていただきます。私が墨東病院に在籍していたのは2年弱ですが,この症例は経過の速い筋萎縮性側索硬化症(ALS)だったので,最初から最後まで主治医として診ることができました。その後,幸い病理についても自分で解析する機会をいただけたことで,個人的に非常に印象深い,記憶に残っている症例です。それでは,症例の提示から始めます。

 症例は48歳の男性です。主訴は,右腕が上がらないということです。

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Ⅰ.バイオグラフィー

 Vein A1)によれば,セルゲイ・セルゲーヴィッチ・コルサコフ(Sergei Sergeevich Korsakov;1854-1900;Fig.1)は帝政時代の1854年に中央ロシアのウラジミール州で生まれた。父親はガラス工場の経営者であった。16歳でモスクワのギムナジウムを終え,モスクワ大学医学部に入学した。コルサコフは在学中,正規のカリキュラム以外に自然科学や哲学にも多大な関心を示した。このことは彼の精神医学に対する洞察や包括的なアプローチに影響を与えた。

 卒業後の1875年にモスクワ・プレオブラジェンスキー精神病院の臨床医として働き始め,1年後,アレクセイ・コジェフニコフ(Aleksei Kozhevnikov;1839-1902)が率いるモスクワ神経疾患クリニックに加わり3年間のトレーニングを積んだ。その後,再び前述の病院に勤務するとともにベッカーズクリニックのチーフとなり,ここでのちの研究に資する多くの臨床データを得た。

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バックナンバーのご案内

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 日本頭痛学会「慢性頭痛の診療ガイドライン 市民版」作成小委員会(委員長 立岡良久先生)編集による『慢性頭痛の診療ガイドライン 市民版』が医学書院より上梓された。これは同学会と日本神経学会が共同でまとめた,頭痛診療医向けの『慢性頭痛の診療ガイドライン2013』を患者向けに要約・編集したもので,本来の出版目的は患者への啓発用にということであろう。この目的には大変有用であり,患者が個人で読み,理解するには役立つであろうし,さらに診察室内での説明用,待合室に備えつけとしても使える本である。しかし,あらためて読ませていただくと,患者のみならず,頭痛診療を見直し,スキルアップを考えている非専門医にも役立つ内容にもなっており,この点の活用も十分重要と思われ,患者・医師両者に向けてご推薦したいと思い筆を執った。

 本書の特徴は第一に記述が簡潔で簡単明瞭である。テーマに対する答えが短く,時間がないときも一瞥するだけで答えが得られる。第二にはサイドメモが充実している。ここで頭痛のバリエーションやさらなる情報の入手先がわかる。第三にあくまでも質問から出発している構成になっていることである。医師であれば,すぐに読了できる量と内容である。第四に『慢性頭痛の診療ガイドライン2013』以後に発表された,最新の頭痛分類(国際頭痛分類 第3版beta版)に準拠していることである。

次号予告

「読者からの手紙」募集

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 病歴を正しく取ることは神経診察で最も大切なことの1つである。知識が正しい病歴聴取の邪魔になることもあるので要注意である。

 K病院のカンファレンスが終わったときに,「勉強になりました」と症例提示した臨床研修医M君に言われて嬉しかった。病歴提示の前に「お母様と2人暮らしの男性で,まだ46歳の方です。お母様からの病歴が正しく取れませんでした」というエクスキューズをM君が述べた。病歴には「発症後すぐに片麻痺があるのに運転した」など,確かに不思議な内容が書かれていた。言語聴覚士によると,言語症状は運動性失語疑いとのことであった。MRI所見は左側頭頂側頭葉の脳梗塞を示唆していた。運動麻痺の責任病巣が明確ではない。SPECTは撮像していないので,機能的には運動領域に異常がある可能性がある,とM君が説明した。

基本情報

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BRAIN and NERVE
67巻5号 (2015年5月)
電子版ISSN:1344-8129 印刷版ISSN:1881-6096 医学書院

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