言語聴覚研究 12巻4号 (2015年12月)

言語聴覚研究優秀論文賞

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 本誌を発行する一般社団法人日本言語聴覚士協会は,「言語聴覚研究」に掲載された原著論文のうち特段に優れた論文に対し「言語聴覚研究優秀論文賞」を授与しています.対象となる論文は過去2年間に本誌に掲載された原著論文のうち,筆頭著者が投稿時点で40歳未満の論文です.選考は本誌編集委員会が基準を設けて厳正に行っています.受賞論文は一般社団法人日本言語聴覚士協会総会・日本言語聴覚学会において表彰いたします.

 「第6回言語聴覚研究優秀論文賞」は2013年〜2014年(第10巻1号〜第11巻4号)の間に「言語聴覚研究」に掲載された対象論文14編の中から厳正な審査を経て下記の論文が受賞しました.

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1.はじめに

 今回,第6回言語聴覚研究優秀論文賞を受賞できたことを大変光栄に思います.編集委員の先生方や査読委員の先生方に御礼申し上げます.また,ご協力いただきました保育園の関係者の皆様および子どもたち,研究の方法から研究成果を論文に書き上げるまで懇切丁寧にご指導していただきました国際医療福祉大学大学院の藤田郁代先生をはじめ,ご助言やご支援いただきました多くの方々に深く感謝申し上げます.

 受賞論文は大学院修士課程に在籍していたときの研究成果をまとめたものであります.言語聴覚士として言語発達に遅れがある小児の臨床にたずさわるなかで,構文理解の指導を行いますがなかなか成果がみられないことがあり,どのような方法が効果的であるかについて考えるようになりました.調べていくうちに,構文理解の処理過程にどのような認知機能がかかわっているかを知ることが重要なことではないかと思うようになり,研究することにしました.

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 角回を含む左頭頂後頭境界部の脳梗塞により異書体性失書を呈した60歳代右利き男性を対象に,平仮名と片仮名の形態の差異が仮名文字の書取に与える影響を検討した.発症から約1か月間に100単音節の仮名書取課題を3回行い,正答率と各誤反応出現率を調べた.また,文字形態の視空間的構造の複雑性やストロークの共通性が正答率と異書体の誤りに関与するか分析した.発症初期,平仮名は片仮名よりも正答率が低く,異書体の誤りの出現率が高かった.平仮名では新作文字が約1か月を通し出現したのに対し,片仮名ではほとんどなかった.平仮名の中でも複雑な形態の文字は異書体の誤りを生じやすく,ストロークの共通性の違いは影響しなかった.曲線や交点が多い複雑な視空間構造の平仮名は文字形態の視覚心像の想起や把持が困難と推察され,異書体の発現に視空間的構造が関与している可能性が示唆された.また,文字表象の適切な賦活と抑制が困難な可能性も考えられた.

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 摂食嚥下リハビリテーション(以下,嚥下リハ)を行った男性入院患者39名(平均年齢65±12歳)の介入中の咳嗽時最大呼気流速(Peak Cough Flow:PCF)値の変化を調べ,嚥下障害の重症度とPCF値との関係や誤嚥性肺炎発症者のPCF値について検討した.

 摂食・嚥下障害の臨床的重症度分類(Dysphagia Severity Scale:DSS)とPCF値との間に有意な正の相関を認めた.PCF値は,DSS改善例では嚥下リハ開始日と比べ終了日に有意に増加したが,DSS不変例では差がなかった.水分誤嚥と食物誤嚥のDSS改善例では,嚥下リハの段階が進むにつれてPCF値が増加した.1日当たりPCF値変化率は,直接訓練開始日−経管栄養離脱日間で一番大きいことより,直接訓練が進展し経口摂取が確立する時期に,咳嗽力も大きく向上する可能性が示唆された.誤嚥性肺炎患者の発症前直近のPCF値は140L/分と低値であることより,PCF値が低値の患者では,嚥下造影検査や嚥下内視鏡検査で安全な食物形態を確認するとともに,咳嗽力の向上後に直接訓練を開始するなどの対応が重要になると考えられた.

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 目的:摂食・嚥下カンファレンスは多職種で嚥下と栄養をサポートするために行うものであるが,A大学病院歯科口腔外科病棟での介入の実際をretrospectiveに解析した.対象および方法:手術や放射線療法を施行した口腔癌30名の入院患者に対して介入前後で藤島の摂食・嚥下能力グレード(嚥下グレード),総エネルギー摂取量,body mass index(BMI),血液検査結果を調査し改善率を調べた.結果:治療から介入までは平均25日であり,介入期間は平均45日であった.嚥下グレードは76.7%の患者で改善し,血中総蛋白濃度は6.1%,アルブミン濃度は7.5%上昇した(それぞれp<0.05).総エネルギー摂取量は2.4%増加したが,BMIは2.3%低下していた(p<0.05).結論:多職種がカンファレンスに介入し情報を共有し周知して,その場で方針の変更や決定を行った結果,摂食・嚥下機能や栄養状態の改善に効果があったと考えられる.そして,BMIの維持にはさらなる投与栄養量の増加が必要である.

リポート「現場,最前線」

米国のClinical Fellowship 田宮 愛
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1.はじめに

 米国では,大学院で修士課程を修了しClinical Fellowship(CF)を終えた後,米国言語聴覚士協会(American Speech-Language-Hearing Association:ASHA)のCertificate of Clinical Competence in Speech-Language Pathology(CCC-SLP)に認定される.CFの期間中は,言語療法士(Speech-Language Pathologist:SLP)はSpeech-Language Pathologist-CF(SLP-CF)として,スーパーバイザー(Supervisor:SV)の指導の下に臨床に携わる.

 今回はASHAのホームページに掲載されているCFの情報(http://www.asha.org/certification/CFinformation/)を中心に,CFの目的と修了条件,評価内容を紹介し,実際に私が行ったカリフォルニア(California:CA)州の高度看護施設Skilled Nursing Facilities(SNF)におけるCFについて報告する.

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投稿規定

執筆要綱

投稿誓約書

編集後記 藤田 郁代
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 今号には,第6回言語聴覚研究優秀論文賞を受賞された深水峰子氏の随想が掲載されています.本賞は(社)日本言語聴覚士協会における研究活動推進事業の一環として,特に若手研究者の研究活動を奨励し,優れた研究成果を表彰するために設けられました.受賞対象となるのは筆頭著者が40歳未満で,過去2年間に本誌に掲載された原著論文です.この賞は2010年に設置され,これまでに6名の方が受賞されています.どの受賞者もその後,学会で演題発表を活発になされ,論文執筆も継続されており,その姿を拝見するたびに心強く思っています.

 言語聴覚障害学分野は,20〜30歳代の言語聴覚士が75%を占め,年齢分布が若年層に偏っています.これは国家資格が1997年に成立し,その後,養成校が急激に増えたことによります.それから約18年が経過し,今やその養成校を卒業した方々が本分野の中核を担うようになってきましたが,このような方々の臨床・研究活動について少し気になることがあります.それは,わが国の言語聴覚士は諸外国の言語聴覚士と比較して,研究への取り組みが少ないことです.これは研究技能を修得する大学院への進学率の低さにも現れています.わが国でも看護学分野では大学卒業者の約2割が大学院に進学するといわれますが,本分野の大学院進学率はまだ高くありません.また学術専門誌への投稿論文数も少ないのが現状です.臨床の質の向上には研究との融合が欠かせません.本誌の優秀論文賞が若手研究者の研究活動の活発化につながることを期待したいと思います.

基本情報

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言語聴覚研究
12巻4号 (2015年12月)
電子版ISSN: 印刷版ISSN:1349-5828 日本言語聴覚士協会

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