日本内視鏡外科学会雑誌 25巻2号 (2020年3月)

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◆要旨:鼠径ヘルニア日帰り手術におけるリヒテンシュタイン(LICH)法とtotally extraperitoneal repair(TEP)法の短期手術成績を後ろ向きに検討した.2017年2月から2019年3月の間に当クリニックで待機的に行った成人片側初発鼠径ヘルニア症例でLICH法248例とTEP法120例を検討したところTEP法では手術時間と術後在院時間が有意に延長し,経口鎮痛薬使用個数,追加用の鎮痛坐薬使用割合,手術翌日の疼痛スコア,社会復帰日数に差は認めかなった.術後合併症に関しては皮下出血・血腫,漿液腫に差はないが神経障害に関しては有意に少なかった.日帰り手術においては術後鎮痛を十分にしておけばLICH法とTEP法では術後疼痛,社会復帰において差は認められなかった.

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◆要旨:右上葉区域肺静脈が右上肺静脈から独立して気管支背側を通過し,左房や肺静脈に流入する分岐走行異常は比較的稀である.食道癌に対して胸腔鏡下食道亜全摘術を行った2症例において,術前CTで右主気管支または中間気管支幹背側を走行する右上葉区域肺静脈の破格を診断した.右主気管支背側を走行する症例では本静脈の気管支末梢側・中枢側を分けてリンパ節郭清を行い,中間気管支幹背側の末梢を走行する症例では本静脈は郭清範囲の辺縁に存在し手術操作に影響はなかった.食道外科領域において右上葉区域肺静脈の分岐走行異常は気管支背側を走行する部位により手術への影響が異なり,術前画像診断および手術操作に注意を要すると考えられる.

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◆要旨:患者は58歳,男性.主訴は肝機能異常.他院で胆囊結石症と診断され当院に紹介された.US,CTで肝床部に2つの胆囊を認め,主胆囊内に結石が存在していた.MRCPで2つの胆囊管は別個に総胆管に合流するGross分類B型の重複胆囊と診断した.総胆管結石も認められたため,ERCPで採石した後,腹腔鏡下胆囊摘出術を施行した.手術は通常の4ポートで行った.2つの胆囊は同一の漿膜に覆われており,胆囊管同士は癒着していた.胆囊管を2つに剝離し各々にクリッピングし胆囊を摘出した.術後経過に問題なく術後4日目に退院となった.重複胆囊は非常に稀な胆道奇形の1つである.腹腔鏡下胆囊摘出術を行う際には,副胆囊の位置や胆囊管の合流部位などの解剖学的変異を把握することは合併症を回避するうえで重要である.

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◆要旨:患者は64歳,男性.腹痛を主訴に来院した.右横隔膜ヘルニアを認め,5年前に転落による右肋骨骨折の既往があることから,遅発性外傷性右横隔膜ヘルニアと診断し腹腔鏡下手術を施行した.陥入していた小腸は一部壊死しており,腹腔鏡下に還納の後,小開腹創より体外へ挙上し小腸切除を施行した.ヘルニア門の修復は腹腔鏡下に非吸収糸の連続縫合で行った.術後経過は良好で9日目に退院した.術後3か月で他疾病に対し腹腔鏡下手術を施行した際に腹腔内を観察すると,肝臓がヘルニア門を被覆しており,再発は認めなかった.

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◆要旨:患者は50歳代の男性で,下縦隔腫瘍に対し,左胸腔鏡下下縦隔腫瘍摘出術を施行した.術後1日目より頻回の嘔吐があった.術後2日目に食道裂孔ヘルニア(混合型)を認め,当科紹介となった.術後7日目に腹腔鏡下食道裂孔ヘルニア修復術を施行した.嵌頓した胃上部を腹腔内へ牽引・整復し,食道裂孔を縫縮しメッシュによる補強後,噴門形成術(Nissen法)を併施した.術後経過良好で,食道裂孔ヘルニア修復術後12日目に退院した.術後食道裂孔ヘルニアは,胸腔側・腹腔側のいずれの手術においても,食道裂孔周囲を扱う手術において起こりうる術後合併症である.術前から食道裂孔ヘルニアの発生を念頭におき,手術に臨むべきである.

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◆要旨:患者は67歳,男性.直腸癌に対する直腸切断術および人工肛門造設術の6年後,C型肝硬変に伴う門脈圧亢進症により下腸間膜静脈を供血路とした人工肛門静脈瘤および出血を認めた.2年後に食道静脈瘤の発達および出血を認め,内視鏡的静脈瘤結紮術を施行した.消化器内視鏡的治療を進めることで,門脈圧の上昇により人工肛門静脈瘤への供血が悪化し,再出血が危惧された.門脈圧の減圧を目的として腹腔鏡下脾臓摘出術,供血路の血行遮断として下腸間膜静脈遮断術を施行した.術後に人工肛門静脈瘤の血栓化および退縮を認めた.全身状態が安定した症例では,人工肛門静脈瘤に対して腹腔鏡下手術も有効な治療選択肢となると考えられた.

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◆要旨:患者は5歳,女児.2日前から腹痛を認め前医で便秘症と診断された.疼痛が右下腹部に移動し悪化したため急性虫垂炎疑いで当院を紹介された.微熱と右下腹部に著明な圧痛と腹膜刺激症状を認めた.血液検査で白血球とCRPの著明な上昇を認めた.単純CTで腫大した虫垂は描出できなかったが,周囲には渦巻き状構造を伴う脂肪構造を認め,臨床所見より急性虫垂炎・限局性腹膜炎を疑い,同日腹腔鏡下で緊急手術を施行した.手術所見では,正常虫垂と捻転し壊死した大網を認め,大網捻転症と診断し切除を施行した.経過は良好で,術後4日目に退院となった.小児特発性大網捻転症は腹腔鏡下手術が診断の確定・治療において低侵襲で有用であった.

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◆要旨:患者は31歳,女性.上腹部痛と食欲不振を主訴に近医を受診し,脾腫瘍と診断され当科へ紹介された.CT上,脾臓に径12cm大の多房性囊胞性腫瘤を認めた.脾リンパ管奇形と診断し,腹腔鏡下脾臓摘出術を行った.腫瘤は多房性ではあったが大きな囊胞成分を含んでいたので,術中,囊胞を穿刺し内容液を吸引し腫瘤を縮小させた.これにより,脾門の脈管処理を安全に行うことができた.径の大きい囊胞性腫瘤であったが,囊胞内容液を吸引することによって腹腔鏡下で手術を完遂することができた.病理学的診断は脾原発リンパ管奇形であった.

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◆要旨:患者は74歳,男性.2年前に下行結腸癌(pT4a, N2, M0, Stage Ⅲb)に対する腹腔鏡下結腸部分切除(下行結腸)後,再発なく経過していた.下痢と腹痛を主訴に受診した.造影CTで動静脈瘻,虚血性腸炎と診断し,動静脈瘻による盗血症候群が原因と考えた.責任血管の閉塞目的にinterventional radiologyを施行し,動静脈瘻をヒストアクリル®で塞栓した.動静脈瘻の成因に血管の一括結紮処理や手術操作による炎症が指摘されている.本症例は腹腔鏡下手術後であり,血管切離断端が近接していた.動静脈瘻の治療は外科的切除の報告が多くを占めるが近年は塞栓術も報告されている.腸管が温存可能で,比較的低侵襲であることから,interventional radiologyによる塞栓術は,術後の動静脈瘻の治療で有効な選択肢となる.

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◆要旨:[目的]保険収載の結果,2018年4月より浸潤性膀胱癌に対するロボット支援下腹腔鏡下膀胱全摘術(RARC)が急速に普及している.膀胱全摘術では尿路変向術が必要で,ロボットの使用により従来よりも簡便に腔内尿路変向術(ICUD)が施行できると期待されているが,その標準的な手術方法はまだ定まっていない.[方法]筆者らは術式の標準化を行い,2018年から2019年にRARCに際して腔内回腸導管造設術(尿管回腸吻合は主にWallace法)を施行した11例を評価した.[成績]ICUDの所要時間中央値は160分で,症例の蓄積に伴い短縮した.全例に目立った術中合併症を認めなかったが,追加処置の必要な術後合併症を2例に認めた.[結論]腔内回腸導管造設術を安全に導入できた.

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目次

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投稿時のチェックリスト

編集後記 渡邊 昌彦
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 1983年当時30歳の私は,国立がんセンター病理部で,後に総長まで上り詰めた故廣橋説雄先生に師事した.実験に明け暮れ,廣橋先生とは毎晩夕食をともにし,終電で銀座のお姉さまたちの甘い香りに噎せ返りながら家路についた.その甲斐あって辿り着いた初の英語論文が,学位論文となった.先生からは論文の構成にはじまって,定型文,図表の書き方,索引の選び方まで叩き込まれた.論文とは「目的」を明示し,それに対する「結果」を記すに尽きることを知った.その後,和文論文の経験がないど素人の私に,総説依頼が舞い込んだ.見様見真似で書き上げた総説を,こともあろうに病理部長の下里幸雄先生に読まれてしまった.当時の下里先生はがんセンターの「憲兵」と恐れられていた厳しいお方.目を通すなり,第一声が「文語体で書けば格調が上がると思ったら大間違い!」「…にて,だの,…おいて,だの使うんじゃない!」であった.以来,私はなるべく平易な文章を心がけている.

 その後,母校の外科学教室に帰室し,ある光景を目にした.忙しい土曜の午後,データを手にした部下の傍らで,ご自身がコンピューター(当初はタイプライター)に向かう恩師故久保田哲朗先生の姿である.部下とディスカッションしながら,その場で久保田先生はスラスラと論文を書き上げていった.まさに神業.レジデントの中には自分の英語論文を訳せないご仁もいたという過保護ぶりで,先生は100篇を超える学位論文を指導した.私は残念ながら指導者として,どの師匠にも追いつくことができなかった.ただ,編集委員歴こそ長いので,偉そうに御託を並べることには長けているかもしれない.

基本情報

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日本内視鏡外科学会雑誌
25巻2号 (2020年3月)
電子版ISSN:2186-6643 印刷版ISSN:1344-6703 日本内視鏡外科学会

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