胃と腸 40巻6号 (2005年5月)

今月の主題 Crohn病の初期病変―診断と長期経過

序説

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一般的にCrohn病の初期病変はアフタ様病変と考えられている.その根拠として,縦走潰瘍や敷石像などの典型病変の口側または肛門側に高率にアフタ様病変が認められ,その一部は典型像に進展しうることが挙げられてきた.また,術中内視鏡で異常なしとされた腸切除例の腸管吻合部に術後比較的短期間のうちにアフタ様病変が高頻度に新生し,その多くが経年的に典型像へと進展する1)こともその根拠となっている.さらに,近年,典型病変を欠きアフタ様病変のみから成るCrohn病の存在が明らかとなり,一部の症例では経過中に典型像に進展しうることが報告された.すなわち,八尾ら2)は,アフタ様病変のみから成るCrohn病21例と典型的Crohn病166例の臨床像を比較した結果,①腹痛,下痢,発熱,体重減少などの臨床症状が前者で有意に少なかったこと,②活動指数(CDAI,IOIBD)や炎症所見(血沈,CRP,血小板数)が前者で有意に低値であったこと,③栄養状態を表す指標(比体重,血清アルブミン,総コレステロール)が前者で有意に高値であったこと,④前者の6例が典型的Crohn病に進展したこと,などから,前者は後者の初期病変と考えられると報告した.また,筆者らの施設で経験した10例の検討でも,5例が典型像への進展を認めた3).これらの事実から,アフタ様病変をCrohn病の初期病変とする考えは疑う余地のないものとされている.

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要旨 Crohn病の初期病変を明らかにするため,初回検査で縦走潰瘍や敷石像を欠く,治療歴のないCrohn病10例の一般臨床像,X線・内視鏡所見を検討した.またアフタ様病変を示す他疾患との鑑別点について症例呈示を中心に考察した.Crohn病の大腸アフタ様病変の内視鏡所見は5型(1群:平坦な小びらん,2群:わずかな小隆起,3群:中央に小陥凹・びらんを伴う小隆起,4群:類円形の明らかなびらん・潰瘍面を伴い,わずかに隆起するもの,5群:鮮鋭な境界を有するdiscrete ulcerないしそれに近いもの)に分けられ,3群のアフタが10例中9例と最も高頻度にみられたが,Behҫet病や他の炎症性疾患とのアフタのみでの形態学的鑑別は困難であった.アフタの鑑別には臨床経過,上部消化管や小腸病変,病理所見,消化管外症状などを総合した診断が必要である.

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要旨 Crohn病22例の大腸アフタ様病変を対象として,その病理組織所見と分布様式および内視鏡像の経時的推移との関係を解析した.アフタ様病変の病理組織像は,①リンパ球集簇炎(L型),②リンパ濾胞炎(F型),③粘膜表層優位の慢性活動性炎(S型),④粘膜深層優位の慢性活動性炎(D型)に分類された.縦走配列は,L型(1/15),S型(3/16),D型(4/20)にみられたが,F型(0/15)にはなかった.次回内視鏡検査で,アフタが存在した大腸区域に縦走潰瘍または敷石像が出現したものは,L型(3/9)(次回内視鏡検査までの期間:平均11か月),S型(3/12)(同:17か月),D型(5/16)(同:15か月)であり,F型(0/12)(同:19か月)にはなかった.以上より大腸では,L型,S型,D型の炎症組織パターンを示すアフタ様病変が,Crohn病の初期病変(典型的病像へ推移しうる前段階)と推定された.

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要旨 初回診断時アフタのみのCrohn病(A型CD)15例と,診断前にアフタ様病変が確認された潰瘍性大腸炎(E型UC)5例の初回大腸病変および経過を比較した.アフタはリンパ濾胞様小隆起(I型),大型のリンパ濾胞様隆起(II型),発赤を伴う小白点(III型),白苔を伴う小潰瘍(IV型)に大別した.A型CDの主たる病変はI型のみが3例,II型が1例,III型が7例,IV型が4例で,E型UCではII型(3例)ないしIII型(2例)アフタを認めた.A型CD8例は3~108か月(平均29か月)で小腸型(4例),大腸型(1例),ないし小腸・大腸型(3例)Crohn病へと進展した.E型UCでは3~66か月(平均18か月)後に全大腸炎型UC(1例),と遠位型ないし区域性潰瘍性大腸炎(4例)に進展し,後者の3例は全大腸炎型UCへと進展した.以上より,アフタ様病変は潰瘍性大腸炎の初期病変であるが,内視鏡所見はCrohn病とは異なると結論した.

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要旨 アフタ様病変のみから成るCrohn病(以下,A型CD)の長期経過を知る目的で,典型的Crohn病(以下,T型CD)に進展する頻度,進展例の臨床的特徴,X線所見,累積手術率などについて検討した.当院で診断,治療した22例(男性13例,女性9例,経過観察期間:102.1±61.3か月)を対象とした.〔結果〕T型CDへ進展したのは22例中13例(59.1%)であった.典型病変出現までの期間は44.0±37.8か月であり,13例中12例(92.3%)は60か月以内に進展した.進展例13例の最終病型は小腸型8例,大腸型2例,小腸大腸型3例であった.進展例と非進展例の比較では,初診時の炎症所見や活動指数には差を認めなかったが,診断時に上部消化管病変を合併した頻度が,進展例で非進展例より高かった.初回治療の内容や有効性には両者間に明らかな差を認めなかった.X線検査による進展例の特徴は,小腸病変では大型のアフタ様病変,高密度分布,また浮腫の存在,大腸病変では浮腫の存在であった.22例中4例(18.2%)が経過中に手術を受けていたが,累積手術率は小腸型CD,小腸大腸型CDと比べても,統計学的に明らかな差を認めなかった.〔結論〕A型CDのT型CDへの進展様式はある程度判明した.T型CDに進展した後には,特異的な臨床像や経過はなかった.進展を阻止するための治療法は見い出せず,今後,さらに検討が必要である.

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要旨 アフタのみから成るCrohn病の長期経過例を検討し,以下の成績を得た.①3年以上経過を追えたアフタのみから成るCrohn病16例中9例(56%)が進展し典型例となり,7例(44%)が不変もしくは改善した.②初診時CRP値は,進展群で高い傾向があったが有意差はなかった.③初発症状として,進展群では腹痛の頻度が低い傾向にあった.④肛門病変は進展群全例に認め,不変・改善群より有意に多かった.⑤進展例での診断時から典型病変出現までの期間は平均29.7か月であった.また進展病変は回腸もしくは盲腸・結腸にのみ認め,縦走潰瘍を形成することが多かった.⑥進展群9例中5例(56%)に腸管手術が施行された.

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要旨 アフタのみから成るCrohn病症例で5年以上経過を観察した32症例を対象として,その経過中の大腸,小腸X線所見の推移を検討した.32症例の内訳は男性24例,女性8例で,年齢は7~52歳,平均20.7±9.8歳であった.初診時アフタは主に大腸に6例,小腸に3例,大腸,小腸にみられた症例は23例であった.32例のうち30例がアフタから縦走潰瘍,敷石像のみられる進展例に移行した.その期間は0.7~9.0年,平均3.2±1.9年であった.13歳,女性で小腸病変を8年4か月間観察した例,52歳,女性で大腸病変で20年間経過観察した例のX線フィルムを呈示して解説した.呈示した2症例,また,多くの例で,はじめアフタは,いったん,消失し,再発する.再発時にはアフタは縦に配列して認められた.このアフタも消失したが,その後,縦走潰瘍が突然,X線フィルム上に出現した.そして,縦走潰瘍は瘢痕化する.多くの症例で,この2症例と同じ所見の変化を示した.各時期の所見を知ることは,今後,その時期に応じた治療を選択する上で有用である.また,アフタにinfliximabを投与した2症例を報告した.infliximabのみで治療した症例ではアフタは再発したが,infliximab投与後,成分経腸栄養療法を続けている症例では約1年10か月後再発していない.

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要旨 患者は26歳の女性で,3か月間続く粘血便を主訴に当科受診した.大腸内視鏡検査で肛門縁より約5cmの範囲全周性に,光沢を有するほぼ均一な半球状小隆起の集簇,いわゆる“イクラ状粘膜”を認めた.生検病理組織ではリンパ濾胞を形成する非特異的炎症像を認めた.血清Chlamydia trachomatis(C.t.)抗体陽性,直腸粘膜擦過診,子宮頸管・腟部擦過診でC.t.抗原陽性であり,クラミジア直腸炎と診断した.本症例は治療に難渋したが,minocycline hydrochlorideの長期経口投与により,内視鏡所見の改善とC.t.抗原の陰性化を認めた.非特異的直腸炎の鑑別として,性行為感染症が蔓延している現況においてクラミジア直腸炎も念頭に置くべきと考えられた.

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要旨 患者は17歳,男性.肛門周囲膿瘍と体重減少を主訴に来院.下部消化管内視鏡検査で,終末回腸と全大腸に多発,密集するアフタ様病変を認めた.生検にて非乾酪性肉芽腫が証明され,Crohn病と診断した.salazosulfapyridine(SASP)と経腸栄養法にて,内視鏡上アフタ様病変のみとして経過したが,8年後,終末回腸に縦走潰瘍が出現.その後,肛門周囲膿瘍,痔瘻の増悪がみられ,人工肛門を造設した.大腸はアフタ様病変のまま13年間経過観察中である.

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要旨 患者は初診時26歳,女性.右側結腸粘膜に発赤,浮腫,アフタ様病変を認め,初診から3年間無治療,その後salazosulfapyridine(SASP)で加療され12年間腸管病変はアフタ様病変を認めるのみであった.しかしその後ストレスを契機に突然口腔,食道に多発性難治性アフタが出現し,同時に右側結腸に縦走潰瘍が認められた.絶食,中心静脈栄養管理でほぼ2週間で炎症反応は陰性化,症状も消退し,成分栄養療法を併用して外来管理となり,現在も経過観察中である.

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要旨 症例は35歳,女性.便性帯下を主訴に近医産婦人科を受診.産婦人科的には異常を認めず,次第に下痢,腹痛などの消化器症状を呈したため精査し,回腸直腸瘻,直腸腟瘻,左水腎症,左腸骨窩膿瘍,高位痔瘻を合併した小腸大腸型Crohn病と診断.ステロイド,免疫抑制剤を投与するも瘻孔は閉鎖せず,外科的治療にて症状軽快.Crohn病では肛門病変を合併することが多いが,直腸腟瘻の合併は比較的少なく,帯下増加を初発症状として診断に至った例はまれである.Crohn病における直腸腟瘻の合併は女性のQOLを著しく低下させるので早期に診断し,QOLの向上を図ることが重要である.

早期胃癌研究会

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2004年12月の早期胃癌研究会は12月15日(水)に学術総合センター講堂で開催された.司会は長南明道(仙台厚生病院消化器内視鏡センター)と趙栄済(京都第二赤十字病院消化器科)が担当した.ミニレクチャーは牛尾恭輔(九州がんセンター)が「医用画像の温故知新―華岡青洲ら先人達の画像から学ぶ」と題して行った.

2005年1月の例会から 飯田 三雄
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2005年1月の早期胃癌研究会は,1月19日(水)に日本教育会館一ツ橋ホールで開催された.司会は飯田三雄(九州大学大学院病態機能内科学)が担当した.

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2005年2月の早期胃癌研究会は,2月16日(水)に東商ホールで開催された.司会は松井敏幸(福岡大学筑紫病院消化器科)と神津照雄(千葉大学医学部附属病院光学医療診療部)が担当した.mini lectureでは,「鳥肌状胃粘膜とは?」と題して春間賢(川崎医科大学内科学食道・胃腸科)が行った.

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欧文目次

編集後記 斉藤 裕輔
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 本号は Crohn 病(Crohn's disease ; CD)の初期病変であるアフタの鑑別,長期経過について特集した.日常診療上多く遭遇するアフタがどの病気と関連するかの診断は治療上大変重要な問題である.アフタのみから成る CD のアフタの特徴について他疾患,特に潰瘍性大腸炎に出現するアフタとある程度鑑別可能であることが,堺論文,松本論文で示され,また,アフタのみの CD の約半数が約 3 年の経過中に典型病変に進展することが平井論文,高木論文でも明らかとなった.丹羽論文では CD の進展に伴うアフタの病理組織像の変化が示された.さらに中野論文ではアフタのみの CD に対して infliximab が投与され,本治療が CD の自然史を変えうる可能性があることも示された.今後,これらの知見を基に,(1)アフタの鑑別のさらなる確立(特に UC 初期病変との鑑別),(2)将来,CD の典型病変へと進展すると予測されるアフタの画像および病理組織学的特徴,(3)将来,CD の典型病変に進展しないと予測されるアフタに対する治療の是非,(4)将来,CD の典型病変に進展すると予測されるアフタに対する治療法(infliximab 投与の是非についても),などが確立されることが重要と考えられる.

基本情報

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胃と腸
40巻6号 (2005年5月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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