Neurological Surgery 脳神経外科 48巻1号 (2020年1月)

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 日本脳神経外科学会のキャッチフレーズ「外科医の目と技を持った神経系総合医」は,現在の脳神経外科医の特徴を実にうまく言い表している.神経系には脳,脊髄から末梢神経までが含まれ全身に張り巡らされているため,脳神経外科医は全身をくまなく診る必要がある.また,それぞれの神経組織にはさまざまな病態と治療法が存在するため,脳神経外科には実に多様なサブスペシャリティーが含まれることとなる.これは脳神経外科の強みとなっているが,多くのサブスペシャリティーが存在し,それぞれが独自に急速な発展を遂げているため,自分の専門外については十分に把握しきれないことも多い.幸い,毎年開催される日本脳神経外科コングレス総会において,ほぼすべての主要分野の最新情報が1つの会場において提供されており,脳神経外科医の卒後教育として大変うまく機能している.

 さて,脳神経外科医各個人とサブスペシャリティーとのかかわりは,そのキャリアとともに変化していく.専門医取得前の研修医時代にはすべての分野をまんべんなく勉強して試験に備えるが,その後は個人の興味や医局・施設の状況などにより特定の専門分野を重点的に極めていくことになり,また,極める分野も年とともに変化することがある.私自身のことを振り返ると,若い頃は主に脳血管障害に興味をもった.卒後10年程経過した頃には,臨床では通常の脳動脈瘤クリッピング術,バイパス術,頸動脈内膜剝離術(CEA)など自信をもってできるようになり,研究面では脳血管攣縮や,米国留学中に学んだ脳の微小循環の仕事において成果を出すことができ,将来,自分は脳血管障害のスペシャリストになるのだろうと漠然と考えていた.

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Ⅰ.序  論

 動静脈短絡疾患は,動脈血が静脈に病的に流出することでさまざまな病態を来す.頭蓋内や脊髄脊椎領域に発生する動静脈短絡疾患のうち,頭蓋頚椎移行部(craniocervical junction:CCJ)に発生する頻度は1〜2%とされる11).CCJに発生した動静脈短絡病変は,他部位と比較して特異な血管構築を呈しやすく,その血管構築が症状発症形式や治療適応・成績に関連することがあり,最近注目されている8,15,19).本稿では,CCJに発生した動静脈短絡疾患の症状,診断,治療,臨床転帰について論じる.

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Ⅰ.はじめに

 画像診断の進歩に伴い未破裂脳動脈瘤の検出率が高くなり,治療件数が増えている.動脈瘤の大きさや部位,形状などといった破裂リスク23,26,27)をもとに,その治療が考慮されている.Blebもリスクの1つとされ,blebの部分では壁が薄いとされることが多い28).未破裂動脈瘤の術中所見として,壁が非常に薄く,中の血液が透見されるような症例は稀ではなく,壁の薄いところが破裂点であるとする報告1,5,11)もあり,動脈瘤壁の性状が破裂リスクの1つではないかと考えられてきた.しかし,これまで壁の厚さを術前に評価することは困難であった.

 近年,高解像度のMRIやcomputed fluid dynamics(CFD)解析を用いて壁の薄い部分を評価した報告2,4,7,10,13,25)が散見される.しかし,これまでの報告は,いずれも動脈瘤の一部分の壁の厚さを評価したものであり,動脈瘤全体の壁の厚さに対する画像所見の報告は,渉猟した限り認められなかった.今回われわれは,動脈瘤壁のほぼ全体が薄い症例を術前に評価することが可能か,CFD解析を用いて検討を行ったので報告する.

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Ⅰ.はじめに

 神経膠腫患者の予後が延長し,治療後,長期間で発生する合併症を診療する機会が増加している.頭蓋内血管狭窄や脳動脈瘤,もやもや病といった血管性障害の発症も報告されており13),治療後のフォローアップにおいて念頭に置くべきである.脳動脈瘤が発見された場合,無症候性であれば経過観察も選択肢となるが,破裂瘤の場合には治療介入が必要となることが多い.

 今回,われわれは,神経膠腫の初期治療後,フォローアップにおけるMRIにて脳動脈瘤を診断し,バイパス術を併用したトラッピング術を行い,良好な経過を得た頭蓋内仮性脳動脈瘤の1例を経験した.放射線治療後の頭蓋内脳動脈瘤について,文献的考察を加えて報告する.

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Ⅰ.はじめに

 Non-bifurcating cervical carotid artery(NBCCA)は総頚動脈が内頚・外頚動脈に分岐せず,複数の外頚動脈枝が直接分岐する頻度0.21%の稀な形態異常で11),その狭窄性病変に対する治療の報告は少ない2,5,7,9,10,12).今回われわれは,NBCCA狭窄に対してダブルバルーン閉塞下flow reversal法による塞栓予防策を講じて,安全にcarotid artery stenting(CAS)を施行できたので,技術上のポイントを考察を加え報告する.

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Ⅰ.はじめに

 脳動静脈奇形(arteriovenous malformation:AVM)は約半数が出血で発症し,出血源としては動脈瘤が関連することが多い1,9,13).また,出血例では1年以内の再出血率が6〜15%と非常に高く,再出血を予防することが肝要である2,3,17).しかし,広範なnidusを伴うAVMの場合,開頭術や血管内治療,放射線治療を駆使しても根治することはしばしば困難である.そのため,出血点となる動脈瘤を正確に同定してtarget embolizationを行うことで,出血リスクを低減することができる6,11)

 近年,2つの異なる血管のthree-dimensional digital subtraction angiography(3DDSA)画像を組み合わせた3DDSA fusion画像は,脳血管病変,特にAVMや硬膜動静脈瘻(dural arteriovenous fistula:dAVF)において血管構築を理解し,治療計画を決定する上で有用なツールとなっている.今回,塞栓術1カ月前と術直前の3DDSAをfusionさせた経時的3DDSA fusion画像(chronological 3DDSA fusion images)により,新規に同定された仮性動脈瘤を塞栓し得た破裂AVMの1例を報告する.

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Ⅰ.はじめに

 脳動脈瘤周囲浮腫(perianeurysmal edema:PAE)は,主に部分血栓化巨大動脈瘤3)やコイル塞栓術後動脈瘤5)などで指摘されており,通常の脳動脈瘤に関する報告は少ない4,6).今回われわれは,頭痛精査時のMRI/MRAで長径約10mmのダンベル型中大脳動脈瘤を指摘され,脳実質に埋没したbleb周囲にPAEと思われるT2延長域を認めた症例を経験した.術中所見では,minor leakを来した亜急性〜慢性期の破裂動脈瘤であると考えられた.PAEが一般的な脳動脈瘤で認められることは稀であり,その意義について,文献的考察を加えて報告する.

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Ⅰ.はじめに

 外傷や腫瘍,医療行為などに関連しない特発性髄液鼻漏は,頻度こそ高くはないものの,時に漏出部位が複数箇所にわたることが報告されている10,17).外科治療では経鼻内視鏡的に修復術を行うことが比較的多いが,漏出部位の同定が困難な場合や他部位から再度漏出する可能性もあり,再発することも少なくない10).今回,頭蓋底部に複数の瘻孔を有した特発性髄液鼻漏に対して2度の手術を行った症例を報告する.

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Ⅰ.はじめに

 髄膜腫は,くも膜表層細胞より発生する脳実質外の腫瘍であり,全頭蓋内腫瘍の15〜18%程度と頻度は高い.髄膜腫の局所再発率は18%程度と低くないが,頭蓋外転移は極めて稀であり,その頻度は文献上0.15%程度と報告されている2).その頻度の低さから,転移の機序について未だ定説はない.今回われわれは,初回手術9年後に肝転移を来したものの,予後良好に経過している異型髄膜腫の1例を経験したので,文献的考察を加えて報告する.

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Ⅰ.はじめに

 家族歴のある多発性神経鞘腫を認めた場合,最初に鑑別診断に挙げるべきは神経線維腫症2型(neurofibromatosis type 2:NF2)であり,次に挙げるべきは多発性神経鞘腫症(schwannomatosis)である.Schwannomatosisは,主に脊髄や末梢神経に多発性神経鞘腫を生ずる常染色体優性遺伝性疾患であり,NF2との鑑別点として,両側前庭神経鞘腫とNF2遺伝子変異による生殖細胞系異常を伴わない点が重要とされる.しかし,片側の前庭神経鞘腫,頭蓋内の非前庭神経鞘腫,脊髄腫瘍,末梢神経鞘腫,皮下腫瘍といった症状がNF2と重複するため7),診断は必ずしも容易ではない.

 今回,脊髄腫瘍の3世代にわたる家族歴と,脊髄を含めた多発性腫瘍を有し,眼窩内腫瘍摘出により神経鞘腫と診断されたことから,schwannomatosisと確定診断できた極めて稀な症例を経験したので報告する.

連載 脳神経外科と数理学【新連載】

(1)医学統計学 服部 聡
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Ⅰ.はじめに

 ビッグデータという言葉をテレビなどでも頻繁に耳に入るようになり,また,一般向けに書かれた統計学を扱った書物が多く出版されており,「ビッグデータブーム」あるいは「統計ブーム」とでもいうような状況になりつつある.この背景には,各種オミックスデータや電子カルテデータ,医学以外ではPOS(point of sale)システムによる購買ログデータやWebログデータなど,これまで考えられなかったような膨大なデータが比較的安価に測定可能となっており,それらの情報を科学研究などに有効に活用するために,計算機科学や統計学に大いに期待がかけられていることがあるように思われる.

 ビッグデータの興隆以前から医学研究と統計学とは密接な関連があり,統計的方法は医学研究に広く用いられてきた.医学研究は多くの場合,厳しい倫理的および実施上の制限の下で研究を実施せざるを得ず,個体差による変動や不確実性を前提とした上で科学的推論を行う必要がある.このために統計学が用いられている.

 「統計学」と聞くと,どのようなことをイメージするであろうか.国勢調査などの社会調査を思い浮かべる方もいるかもしれないが,現在,医学研究で多用されているのは推測統計学と呼ばれる方法で,20世紀初頭にR.A. Fisher卿などにより創始された,比較的新しい方法論である.推測統計学は,確率論と結びつくことで,不確実性に伴う変動を確率の言葉で定量化し,背後にある母集団の構造を推測するという立場をとる.医学論文で頻繁にみかけるP値や信頼区間は,推測統計学の概念である.

 『New England Journal of Medicine』に掲載された各論文で用いられている統計手法の実態調査のアップデートによると,1980年頃は最も基本的と考えられるt検定が中心であったが,その割合が減少してきている13).この背景には,新たな方法が導入され,実際の臨床研究に適用されてきており,それを実行できる統計学の専門家が臨床研究に多く参画している現状があると考えられる.

 一方で,最も影響力の大きい統計関連の団体である米国統計協会が最近,P値の誤用に関する声明を発表し16),それに続くように『Nature』や『New England Journal of Medicine』にも関連する論説が掲載された1,8).高度な統計手法の適用により,医学研究の可能性が広がってきているものの,高度化とともに基本に立ち返った適切な適用が求められている.

 このような背景の下,本稿では,Ⅱ章で推測統計学の主要な道具である統計的仮説検定と信頼区間の考え方をできるだけ平易に説明する.また,医学研究で広範に用いられるロジスティック回帰とCox比例ハザードモデルの導入を行う.これらは言わば古典的な統計手法だが,20世紀末からの個別化医療の推進に伴い,それまでとは考え方を大きく異にした統計手法が開発されてきている.そのすべてに言及することは不可能だが,Ⅲ章で最近のいくつかの発展について解説する.

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●経鼻内視鏡手術に興味をもつすべての医師へ

 最近の時代背景として医療の役割や機能分化が進み,より高度な専門的知識・技術が求められています.専門医,技術認定などの制度化も進み,若手医師は技術習得に目を向けがちですが,困難な手術の成功には,正確な診断(画像解析)と手術解剖の深い理解に基づく論理的思考が重要です.また,頭蓋底疾患は耳鼻咽喉科,形成外科,脳神経外科など複数の診療科が協力することにより,治療成績を大きく向上させてきた歴史があります.最近では,耳鼻咽喉科と脳神経外科の合同で行われる経鼻内視鏡頭蓋底手術は,画期的な低侵襲手術として,これまで到達不可能であった部位にもアプローチ可能となり,治療概念を大きく変えました.一昔前までは極めて治療困難であった疾患も,最近では合併症なく根治性の高い治療が行われるようになってきました.医療の役割や機能分化が進む中で,困難な疾患に対して,診療科の枠を越えて治療に取り組むチーム医療こそ,今後求められる医療の形ではないかと思っています.

 さて本書ですが,内視鏡下鼻内手術に関して「初心者でも行える,わかりやすいプランニングと安全かつシンプルな手術テクニック」を基本概念として作成されています.さらに応用編として,経鼻内視鏡頭蓋底手術に関しても同じ概念で解説されています.耳鼻咽喉科が基本習得する鼻・副鼻腔解剖および手術もわれわれ脳神経外科では特殊な分野で,これまで系統立って学ぶことができる手術書はなかったため,本書がとても良い指南書になっています.本書を読んで興味深いと思ったことは,それぞれ意図することは同じでも違った表現で記載されていることであり,何気ない気づきがあることです.手術を理解・習得していく過程は個々で異なり,それぞれの段階でこの教科書を開いて確認することにより新たな気づきがあり,深い理解へつながるのではないかと思います.

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●エキスパートもハッとさせられる新しい発見がいくつもある

 このたび,東京都医学総合研究所神経病理解析室長の新井信隆先生の手になる本書を拝読する機会を得て,まさに,その迫力と美しさに息を呑んだ.本書の帯にある「大迫力…!」の文句のとおりであった.写真は極めて美しく,必要に応じて破線で輪郭を示したり指示線を活用したりして,かゆいところに手が届く工夫がなされている.長年,神経病理学の教育に尽力してこられた先生の面目躍如である.先生は2年間の研修の後は病理学の道に入られた神経病理学のプロフェッショナルであり,片や私は脳神経内科医でありながら,研究手法として神経病理学を学んだ者であるが,日本神経病理学会では親しくお付き合いをさせていただいた.

 病の人を診るときに,まずよく診て(視診),触って(触診),あるいは叩く(打診)など,目・耳・手などを動員して病気を探り診断に導く.神経病理学もまさに同様であり,自らの眼をもって脳や脊髄をその場で観察し,取り出して観察し,割を入れて内面・断面を開いて観察することが大切である.

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目次

欧文目次

略語および度量衡単位について

次号予告

編集後記 齊藤 延人
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 今年もまた,日本人のノーベル賞受賞者が決まりました.旭化成の吉野彰名誉フェローは,リチウムイオン電池に関する基本技術で化学賞の受賞です.パソコンやスマホなど現在の生活に欠かせない技術となっています.毎年のようにノーベル賞受賞が続くことは,日本人として誇らしいことです.

 さて,本号の扉では,編集顧問で愛知医科大学名誉教授の高安正和先生から,「脳神経外科医のキャリアとサブスペシャリティー」と題したご寄稿をいただいています.若いときに脳血管障害の経験を十分に積んだ高安先生が,脊椎脊髄外科のサブスペシャリティーを選んだ経緯や脊椎脊髄外科の魅力を語られており,若い脳神経外科医にとっては専門を選ぶ際の参考になるのではないでしょうか.

基本情報

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Neurological Surgery 脳神経外科
48巻1号 (2020年1月)
電子版ISSN:1882-1251 印刷版ISSN:0301-2603 医学書院

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