Neurological Surgery 脳神経外科 42巻9号 (2014年9月)

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 私は元来好きなことのみに集中して頑張ることができない性格でした.脳神経外科には漠然とした憧れを抱いて入局しましたが,当時は特に確固たる信念をもち合わせていたわけではありませんでした.ただ入局してからは,8人の同期と切磋琢磨しながら遮二無二手術に参加していました.専門など考えることもなく,日々の定時・臨時手術に加え,大学外の総合病院での勤務時は腹部,整形外科手術の助手としても参加させていただいていました.しかし,その結果,手術への興味ばかりに偏り,患者とのコミュニケーションは少なくなり,患者の“痛み”をわかる医師とはほど遠い姿である自分へのコンプレックスが徐々に大きくなってきました.

 入局から4年目の春,臨床医を続けることへの不安を抱きながらも,かねてより憧れていた北海道大学電子科学研究所で研究することになりました.ここでは医師としてではなく,研究者として基礎工学,電気回路を含む生体磁場計測研究に没頭する覚悟でした.しかし,師事した工学部の教授からのアドバイスは「医者は臨床の研究をしなさい」という一貫したものでした.その結果,今まで気づかなかった患者の“痛み”を思い,臨床現場の限界などを顧みることになりました.まったくわからなかった超伝導力学などについて,工学部の同僚が医学部の人間にもわかるようにかみ砕いて丁寧に説明してくれました.分野の異なる専門家との対等なコミュニケーションと患者への思いを抱き続けながらの研究生活で,その後も臨床医として医工連携研究に携わることになった私の医師人生の礎となる貴重な経験でした.

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Ⅰ.はじめに

 最近,世界的に「難治性てんかん」の概念や外科治療の位置づけについてパラダイムシフトが起きつつある.2013年12月の北米てんかん学会の会長シンポジウムは「The changing landscape of epilepsy surgery:てんかん外科の変貌」と題し,90年代と比較して,側頭葉てんかんの手術が減少し,小児やMRI無病変のてんかん手術が増加していることが取り上げられた.

 2000年頃までの欧米や日本のてんかんセンターにおけるてんかん外科は,効果の確実な患者を慎重に選択し,外科治療の良好な成績を蓄積して,その有用性を広く知らしめるというスタンスであった.それ以前に存在した,てんかん外科治療に対する誤解や偏見を解くためにはこのような慎重で確実なアプローチが必要だったのだと思われる.

 しかしその後,このようなアプローチでは切り捨てられていた,より難治性のてんかんにも目が向けられるようになってきた.抗てんかん薬でも定型的手術でも発作消失に至らない患者,いわば「真の難治性てんかん」の患者は,実際には相当数存在する.このような患者では,それ以上の治療は諦められ,漫然と抗てんかん薬の継続処方が行われがちだった.しかし,発作消失には至らずとも,少しでも発作回数を減少させ,発作症状を軽減することで,患者や家族の日常生活は著明に改善する可能性がある.

 てんかん治療,特に外科治療の有効性については,これまでその根治性,すなわち発作消失率をもって語られることが多かったが,根治の困難な難治性てんかんでは,緩和的治療の意義は無視できないものがある.そこで,本稿では,てんかん治療における緩和的治療の存在意義について検討し,緩和的治療の代表として迷走神経刺激療法(vagus nerve stimulation:VNS)について最近の知見を紹介する.

解剖を中心とした脳神経手術手技

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Ⅰ.はじめに

 頚動脈内膜剝離術(carotid endarterectomy:CEA)の周術期合併症のなかで,術後の脳・頚神経麻痺は一過性のものも含めると1.7~42.0%と最も頻度が高く,しかも頚動脈ステント留置術にはないCEA固有の合併症でもあり,いかに回避するかは重要な課題である2,4,5,8,10-14,16,17,19,21,24-28,30-33,36).本稿では,CEA術野における脳・頚神経の局所外科解剖および神経損傷回避のための手術手技の要点について,自験解剖標本(Fig.1~12),自験手術例(Fig.13~15)を提示して述べる.

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Ⅰ.はじめに

 頚部頚動脈狭窄症は一過性脳虚血発作(transient ischemic attack:TIA)や脳梗塞の原因となり,10~20%で虚血性合併症を来すといわれている1).その要因として,高血圧症,脂質代謝異常症などの基礎疾患や,喫煙などの生活習慣,頚部放射線治療の既往3)などがあるが,なかでも加齢は重要な要因の1つとされている4).しかし加齢が頚動脈病変へ及ぼす影響について検討した報告は極めて少ない.今回われわれは頚動脈内膜剝離術(carotid endarterectomy:CEA)にて摘出した頚動脈プラークをサンプルとして,加齢によると思われる頚動脈プラークの組織学的な変化と,症候に与える影響について検討したので報告する.

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Ⅰ.はじめに

 脳実質内病変に対する生検術は,ナビゲーションガイド下内視鏡下生検術と針生検術(定位的もしくはフレームレス)に分けられる1-8).定位的針生検術の誤差は数mm以内であり最も精度が高い術式であるが,採取組織が小さいため確定診断に至らない場合もある.採取回数を増やすことで診断率が上昇するが,術後出血の危険性も増加する.針生検術の術後出血の頻度は約4.6%(0.08~9.2%)と報告され,重篤な神経症状の悪化を認めることが多い2,3,5,7).フレームレス針生検術は,専用フレームを装着せずにナビゲーションを用いて生検針を目標部まで挿入する術式である3).定位的針生検術よりも精度は低いが,診断率に違いはないと報告されている3).近年,内視鏡下での生検術の安全性,有効性が報告されており,採取組織が大きいこと,止血操作が可能なことなどが利点である1,4,6,8).各施設によって脳実質内病変に対する生検術の術式選択や方法が異なるが,名古屋セントラル病院(以下,当施設)におけるナビゲーションガイド下内視鏡下生検術と針生検術の診断率,術後出血率,術式選択および工夫などに関して報告する.

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Ⅰ.はじめに

 硬膜動静脈瘻の治療の検討を行う場合,feeding arteryの集約・分散状況やその流入部位,罹患静脈洞の構造,流出静脈の分岐位置などを正確に把握しておくことが重要である.しかし,多くの血管が複雑に密集した硬膜動静脈瘻において,上記情報を正確に把握するのは簡単なことではなく,時間と熟練を要する.

 近年,脳神経外科疾患手術の術前検討の際に,workstation上でcomputed tomography(CT),magnetic resonance imaging(MRI),血管造影などのimageをfusionし,手術の術前シミュレーションが行えるようになってきている2,4,6,7,9-11).特に頭蓋底脳腫瘍や動静脈奇形(arteriovenous malformation:AVM)などに関しては,病変と周囲血管や骨,脳・神経との関係が治療前に解析でき,手術の安全性が高まると考えられる.

 今回われわれは,海綿静脈洞部硬膜動静脈瘻(cavernous sinus dural arteriovenous fistula:CSdAVF)に対し,image fusionを活用してその病態把握と加療の検討を行った.その有用性を報告する.

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Ⅰ.はじめに

 紡錘状動脈瘤は椎骨脳底動脈系に多く,中大脳動脈の巨大紡錘状動脈瘤の報告は稀である.今回,われわれは短期間に画像所見の変化を認めた巨大紡錘状中大脳動脈瘤を経験した.本症例に対し手術を施行し,病理所見にて解離を確認したので若干の文献的考察を加え報告する.

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Ⅰ.はじめに

 小児の松果体部に発生した腫瘍性病変に対しては,内視鏡下に生検術を行った後に治療方針を決定することが多い.しかし,生検術で採取する組織量が少なければ病理組織が確定するとは限らない.今回,われわれは2回目の内視鏡下生検術前に腫瘍サイズが急激に縮小し,化学療法を開始後急激に増大した症例を経験したので,文献的考察を加えて報告する.

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Ⅰ.はじめに

 脱法ハーブとは,大麻の薬理成分であるテトラヒドロカンナビノールの効果を模倣した合成カンナビノイドを含有する製品であり,法律で取り締まりができないことより“合法ハーブ”とも呼ばれる4)

 今回,右前頭葉の脳動静脈奇形(arteriovenous malformation:AVM)摘出術から10カ月後に脱法ハーブの使用が原因と考えられる重症横紋筋融解症と頭蓋内出血を来した1例を経験したので,文献的考察を加えて報告する.

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Ⅰ.はじめに

 後大脳動脈瘤は全脳動脈瘤の約1%と稀である4,16).多くはP1,P2 segmentに発生し,P3 segment以降の動脈瘤は後大脳動脈瘤全体の約10%と報告されている14,20).P4 segment動脈瘤の頻度はP3 segment動脈瘤と同等かそれ以下であるため,全脳動脈瘤の0.05%以下であり非常に稀である5,7,14).また,P4 segment動脈瘤に対する血管内治療の報告は,われわれが渉猟し得た限りでは8例しかない6,9,11,13,18).今回,われわれは,破裂後大脳動脈遠位部(P4 segment)動脈瘤に対し液体塞栓物質で母血管閉塞を行った1例を経験したので文献的考察を含めて報告する.

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 日本脳神経外科学会は,第72回学術総会(2013年10月16~18日)での医師向けの緊急提言に続き,「スポーツによる脳損傷を予防するための提言」2)を社会に向けて発表しました.それを受けて,文部科学省はすぐに各教育委員会・学校に通達を出し,マスコミにも取り上げられることが多くなり,2014年は日本においては「脳振盪元年」ともいえる年だと感じています.そのような時期に本誌に掲載された,日本脳神経外傷学会のスポーツ頭部外傷検討委員会委員長の永廣信治先生の広範囲を網羅した総説「スポーツ頭部外傷における脳振盪の意義と対応(No Shinkei Geka 42(5):409-418, 2014)」に感銘を受けつつ,勉強させていただきました.

 本論文のなかで今後の課題として,「外傷例の登録研究や疫学調査,ある競技集団に特化した前向き調査研究など」を挙げられています.米国でのスポーツ外傷における脳振盪の推定発生数や頻度に比べ,日本で医療として把握されている脳振盪数がかなり少ないので,このご意見に賛成です.

連載 脳卒中専門医に必要な基本的知識

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Ⅰ.はじめに

 脳卒中,特に脳梗塞では血管を閉塞する病的血栓が病態の主役であることは論をまたない.しかし,その血栓の組成は均質ではなく,症例によって大きく異なることはあまり理解されていない.その血栓の組成の違いに大きく関わっているのが血小板の動静である.本稿では,血小板を中心に脳梗塞における血栓止血学的側面を概説する.

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欧文目次

お知らせ

投稿ならびに執筆規定

投稿および著作財産権譲渡承諾書

略語および度量衡単位について

次号予告

編集後記 斉藤 延人
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 最近,日本の臨床研究や医学研究の不正問題が世間を騒がせています.データの捏造や改竄はもっての外ですが,そのような悪意がなくとも利益相反の点で問題となることがあります.要点は,薬や医療機器を製造販売する業者から資金提供や役務提供を受けることで,医師主導の臨床研究が歪められることがないよう,関係を開示して透明性を高め,不適切な関係は排除する必要があるということです.この場合の利益相反は,国民の利益と企業の利益が相反していて,われわれ医療者は国民の利益を代弁する必要があるのです.最近,全国医学部長病院長会議から「医系大学・研究機関・病院のCOI(利益相反)マネージメントガイドライン」が,また日本医学会から「医学研究のCOIマネージメントに関するガイドライン」が発表されました.さらに厚生労働省の「臨床研究に関する倫理指針」も改定作業が進んでいます.利益相反に関する方針が大きく転換しつつある現在,雑誌の査読においてもその変化に適切に追随する配慮が必要です.

 さて本号の扉では,旭川医科大学の鎌田恭輔教授がコミュニケーション能力の重要性を説いています.特に海外留学経験や工学部という異種分野への国内留学経験をもとに,コミュニケーションによって得るものの大きさを強調されています.総説では,NTT東日本関東病院の川合謙介先生が,てんかんの緩和的治療という新しい視点を,迷走神経刺激療法を代表として解説されています.緩和的治療としての効果を判定するために,適切な評価軸が必要となることを指摘されています.解剖を中心とした脳神経手術手技では,新古賀病院の一ツ松勤先生が頚動脈内膜剝離術の外科解剖を,大変わかりやすい解剖画像や手術所見を多数使用して解説されています.若手の解剖の勉強のために有力な参考文献となるのではないでしょうか.連載の脳卒中専門医に必要な基本的知識では,血小板の活性化とその制御を概説されています.その他にも,研究論文2編,テクニカルノート1編,症例報告4編などが掲載されています.特に,最近世間を騒がせている脱法ハーブ使用による合併症として横紋筋融解症が紹介されていることが注目されます.本号も引き続き充実した内容が満載です.

基本情報

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Neurological Surgery 脳神経外科
42巻9号 (2014年9月)
電子版ISSN:1882-1251 印刷版ISSN:0301-2603 医学書院

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