Neurological Surgery 脳神経外科 39巻10号 (2011年10月)

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 最近の医学生が(医学生には限らないらしい)教科書を買わないことは,皆さんもよく知っていると思う.医学生に講義や実習でどんな教科書をもっているかを尋ねると,『year note』,『ステップ』,『チャート』などを見せてくれるが,私が指定した教科書をもっている学生に遭遇することは少ない.当大学の1学年は100~110人前後であるが,基本である内科の教科書(朝倉書店の『内科学』がほとんど)をもっている学生は60人前後であり,大学の書店で売れる脳神経外科の教科書数は大体40冊/年であるという.先日,各学年の学生代表との懇談会があり,なぜ教科書を買わないのか,との話題になった.学生の言い分は①教科書は値段が高い,②先輩から,教科書は買わなくても試験は通ると言われた,③試験勉強は授業プリントと過去の試験問題を復習するだけでよい,④教科書の改訂版がすぐに出て情報が古くなる,などであった.このような言い訳を学生がしている状況で,いつも私が授業後に学生から指摘されるのは,①授業プリントの字が小さくて読みづらいところがある,②写真が見にくい,などである.私もそのようなことがないように授業プリントを改訂してきたが,よく考えると,プリントの内容は教科書の内容のpick upであり,代表的な写真は教科書にきれいなものが掲載されている.要するに学生が自分で教科書を復習すれば問題ないことである.

 しかし,教える側にも問題があることが指摘されている.例えば,①Power Pointのスライドのみの授業スタイルでよいのか?,②長年にわたり同じ内容の授業をしていないか?,③学生が授業中にどう反応しているのかを確認しているか?,そしてこれが一番の問題点かもしれないが,④そもそもなぜ指定された教科書が必要なのか?,どのような使い方をすべきかを学生に説明しているか?,臨床や研究が忙しくて,つい教育にかける時間をサボっていないか,自分も大いに反省する必要がある.

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Ⅰ.拡散テンソル画像法とは

 拡散テンソル画像(diffusion tensor imaging:DTI)は,拡散強調像の応用として1994年にBasserらにより提唱された方法6)で,各画素(voxel)の水の拡散を3×3の対称行列で表す方法である.対角化により楕円体(ellipsoid)の3つの主軸(e1,e2,e3)とそのベクトルの方向の拡散係数となる3つの固有値(λ1≧λ2≧λ3≧0)で表される.白質では線維の方向に楕円体の長軸が向き,白質の方向とe1の方向が一致し,白質の方向の見かけの拡散係数(apparent diffusion coefficient:ADC)がλ1となり,それに垂直な方向がλ2,3となる2)(Fig. 1, 2).方向と大きさのあるテンソルモデルを用いることで,白質の可視化と定量化の2つが可能となる.

 可視化に関しては,線維の方向を色で表示するcolor mapやFACT法(fiber assignment by continuous tracking)により拡散テンソル楕円体の長軸を辿り白質路を描出する拡散テンソルtractographyなどがある(Fig. 1-3).これらは従来の画像診断装置では描出することのできなかった白質路が可視化できるユニークな方法である21,23)(Fig. 4-6).

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Ⅰ.はじめに

 脊髄硬膜外血腫は重篤な神経症状を呈することもあり,早期診断と治療は患者の機能予後に大きな影響を与える.好発部位は頚胸髄移行部および下位胸髄であり,頚髄硬膜外血腫は全体の18.7%とされているが,その死亡率は26.2%と有意に高く,その診断,治療には十分な注意が必要である6).今回われわれは誘因なく急性発症し,早期の手術治療により回復し得た5例,および保存的治療により治癒した1例の脊髄硬膜外血腫を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.

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Ⅰ.はじめに

 脳神経外科領域,特に頭蓋底部領域の術前画像診断において,正確に脳神経を可視化することは従来から関心の高い事項の1つであり,MR(magnetic resonance)撮像法やその解析法を中心にさまざまな取り組みがなされてきた.頭蓋内で脳槽内を走行する脳神経の描出に関しては,Heavily T2強調画像を応用したMR cisternographyによる評価が既に確立されており5,19),近年は拡散強調画像(diffusion weighted imaging:DWI)をもとにした拡散テンソル画像(diffusion tensor imaging:DTI)による神経線維描出に関する取り組みも多く報告されている6,8,9,14,16).一方で,脳神経でも,脳槽内から頭蓋底部に至り海綿静脈洞やさらに遠位の頭蓋外組織内を走行する部位に関しては,画像による十分な描出法が確立されておらず,未だにその評価は難しい.

 新潟大学脳研究所(以下,当施設)では,以前よりthree-dimensional anisotropy contrast(3DAC)法による海綿静脈洞内脳神経の局在診断など4,18),脳神経の描出に関する取り組みを多数報告してきたが,日常診療において汎用するには制限も多く,より簡便で精度の高い脳神経の診断画像の検討を課題としてきた.本研究では,MR撮像法で神経描出法として近年注目されつつある3D reversed fast imaging with steady-state precession(FISP)with diffusion weighted imaging(3D PSIF-DWI)法11,20,21)を応用し,海綿静脈洞周辺から頭蓋外へと走行する脳神経を描出することを目的として,至適撮像条件を検討の上,健常人での各種脳神経の描出程度の検証を行ったのでこれを報告し,同法による臨床経験例も紹介する.

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Ⅰ.はじめに

 長崎県は九州の最西端に位置し,大小約600の島々を有する全国一の離島県であり,代表的な大型有人島として対馬,壱岐島,五島列島がある(Table).現在,法指定の離島地域には,県人口の10%にあたる約15万人が暮らしており,公的病院,公設診療所,開業医院により医療が行われている.脳神経外科領域に関しては,地理的に不利な条件に加え外科的緊急手術を行える医療施設がないこともあり,以前よりこれらの離島にて発症した脳神経外科救急患者のほとんどは,海上自衛隊によるヘリコプター(ヘリ)搬送にて当施設へ搬送されてきた(Fig. 1).現在では,ドクターヘリ(Fig. 2A),県消防防災ヘリが加わり,計3機の稼働にて離島医療を援助している.また,1991年より離島医療情報システム(遠隔画像診断システム)が導入され,医療施設間で専門的な診断や治療方針についてのコンサルテーションが可能となり,ヘリ搬送の要請がより速やかになった(Fig. 3).

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Ⅰ.はじめに

 中枢神経系原発悪性リンパ腫(primary central nervous system lymphoma:PCNSL)は,診断時に神経系以外には明らかなリンパ腫のみられない,中枢神経系に発生する節外性悪性リンパ腫と定義される3)

 わが国では節外性リンパ腫の1~2%がPCNSLで,そのうちT細胞性起源のもの(T-PCNSL)は8.5%に過ぎない7).これまでの報告では,大量methotrexate(MTX)療法や手術・放射線療法などが施行されているが,その希少性もあり標準的治療法は未だ確立されていない4,9,12,13).今回,われわれは急速に症状が進行し不慮の転帰をとった,中枢神経系原発の悪性T細胞性リンパ腫の1例を経験した.脳の剖検所見と併せて報告する.

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Ⅰ.はじめに

 正常骨の骨髄には脂肪組織が豊富に存在しているが,骨内に脂肪腫が発生することは稀である.骨内脂肪腫はどの部位の骨にも発生し得るが,大腿骨近位部や踵骨など四肢の骨に発生することが多く,頭蓋骨では少ない9).頭蓋骨内脂肪腫はこれまで17例報告されているに過ぎない1-5,8,9,11-15,17-19).今回われわれは,10歳代後半に発生し,40年以上の経過をもつ前頭骨内脂肪腫の1例を経験したので,文献例を交えて考察する.

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Ⅰ.はじめに

 今回われわれは,歩行後に尿失禁が増悪する過活動性膀胱の原因が腰部脊柱管狭窄症であり,外科的治療により改善が得られた1例を経験したので,文献的考察を加えて報告する.

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Ⅰ.はじめに

 脈絡叢乳頭腫や脈絡叢乳頭癌は比較的稀な脳腫瘍である.その発生頻度は人口10万人当たり0.3人に発生するといわれ9,10),全脳腫瘍のうち0.4~0.8%30)を占めるに過ぎない.一方で,頭蓋外原発の悪性腫瘍の脈絡叢転移も極めて稀である.われわれが渉猟し得た限りでは,過去に35例の報告3,7,13,20,23-26,28,29)しかない.この35例のうち,原発巣としては腎癌の報告23-26)が最も多く,次いで肺・大腸7,24)と続いている.しかし,胆管細胞癌からの転移は過去に報告例はない.両者の鑑別はその稀少性ゆえに時として臨床所見(画像所見),病理所見において困難を伴う.

 今回,われわれは成人担癌患者(胆管細胞癌)に側脳室内脈絡叢部に腫瘍が認められた症例を経験した.画像所見,病理所見を含め原発性腫瘍,転移性腫瘍の鑑別が問題となったが,病理組織診断を用いて最終診断として転移性腫瘍との診断に至った.この非常に稀であり,診断に難渋した症例をその診断過程も含めて若干の文献的考察を加えて報告する.

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Ⅰ.はじめに

 転移性下垂体腫瘍は,担癌患者において進行期に認められる病態である.下垂体部に転移を生じやすい原発癌として,女性患者における乳癌,男性患者における肺癌が知られているが7),腎癌(腎細胞癌)由来の下垂体部への転移病巣は極めて稀であり,これまで24例の報告が認められるに過ぎない8,14).一般に,遠隔転移を伴う腎癌は進行期癌であり難治性である.現在,遠隔転移を伴う進行期腎癌に有用な抗癌剤治療はなく,インターロイキン2(IL-2)やインターフェロンα(IFN-α),インターフェロンγ(IFN-γ)を用いたサイトカイン療法が標準治療として長期に行われていた経緯がある.近年進行期腎癌に対する薬物療法の内容は大きく変化しており,2008年以降,分子標的治療薬であるソラフェニブ(sorafenib),スニチニブ(sunitinib)がわが国でも認可され,進行期腎癌患者における1次治療の内容がこれまでのサイトカイン療法から分子標的治療薬へと移行しており,今後同患者の治療予後改善の可能性が期待される20).このため進行期腎癌患者に対しても,より患者の余命の質を考慮した治療を選択することが重要である.今回われわれは骨,リンパ節転移を伴う腎癌患者において下垂体機能不全,認知機能障害を伴う下垂体転移病変,大脳転移病変を認め,内分泌内科,放射線科,泌尿器科連携のもとで大脳転移病巣の摘出,ホルモン補充療法,放射線治療を行い,認知機能障害が改善した状態で原発病巣,他転移巣の分子標的治療薬による治療が可能であった1例を経験した.腎癌下垂体転移に関する文献的考察を加え,報告する.

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 神経内科ハンドブックの初版は1987年4月に発行された.ちょうど私は卒後5年目で神経内科専門医(当時は認定医) 試験受験の直前であった.コンパクトでありながら,読みやすい文章で多くの情報が無駄なく偏りなく取り上げられており,短時日で読みとおしてしまった.試験に役立ったのは言うまでもないが,それよりもベッドサイドでこれほど実践的な教科書はこれまでなかったのではないかという強い印象を受けた.最も目を瞠ったのは,編集者の水野美邦先生ご自身が執筆され,第4版でもそのエッセンスは変わっていない神経学的診察法と局所診断の項目であった.臨床に有用な神経解剖・神経生理の記載が充実しているだけでなく,初心者にやさしく語りかけるようなアドバイスも書き込まれている.例えば局所診断の章の最初に掲げられている「経験者は複雑な症候の患者を見ても,すぐどの辺りに障害があるか見当がつくが,初心者は末梢から順に考えていくとよい」という金言は,後に水野先生の病棟回診を見学する機会を得て,難しい症例に関しては水野先生ご自身がその通り実践されているのを目の当たりにすることができた.

 初版の序文に書かれている「卒業後比較的年月が浅く,熱意に燃えて臨床研修を行っている方々に読んでいただきたい」という意図は十分達せられ,多くの読者の支持を得て版を重ね,このたびの第4版発行に至った.第4版から新規に追加された点を列挙してみると,3章「症候から鑑別診断へ」に,「3.睡眠障害」「16.排尿排便障害・性機能障害」を追加,5章「診断と治療」の「5.炎症性疾患」を「6.感染症疾患」「7.自己免疫性疾患」に分割,「15.神経筋接合部疾患」を「13.筋疾患」から独立させてある.また6章「基本的治療法・手技」に,「4.公的支援制度」を新しく設けてあり,わが国の神経内科医が患者の助けになる上で必要な基本事項はすべて盛り込まれていると言ってよい.

連載 先天奇形シリーズ

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Ⅰ.はじめに

 頭囲の標準発育曲線で示されるように,頭蓋骨は生まれてから2,3歳までの脳容積の増大に対応して急速に成長する.この骨の成長部が頭蓋骨同士を結合する頭蓋縫合にあたる.前頭縫合は神経堤に由来し生後2歳頃に閉鎖するが,中胚葉由来の冠状縫合,矢状縫合,人字縫合,鱗状縫合は成人期まで開存する.頭蓋縫合が早期に癒合する頭蓋骨縫合早期癒合症(頭蓋骨癒合症,craniosynostosis)では,①早期癒合を来した縫合部を中心に頭蓋の成長が妨げられて頭蓋の変形を来す,②出生後の脳の急速な容積増加につれて頭蓋容積が増加せず,相対的な狭小化による慢性の頭蓋内圧亢進を起こして,脳や視神経の障害を起こす. 同義語として狭頭症(craniostenosis)があるが,これは早期癒合の結果生じる現象をさす.

 頭蓋骨縫合早期癒合症は症候群性(syndromic craniosynostosis)と非症候群性(non-syndromic(isolated)craniosynostosis)とに分けられる31).前者は頭蓋に加え,上顎骨の低形成や指などの骨の形成異常を伴い,遺伝子変異が原因とされ家族性に発生する例がある.また,早期癒合は複数の縫合で来しやすいため頭蓋の変形や狭小化が強く,年少時期での治療が必要となる.ここで述べる非症候群性の病変は頭蓋縫合にとどまり,頭蓋骨以外には先天性の骨病変を伴わないが,症候群性よりも発生頻度が高い.

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欧文目次

お知らせ

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会  期 2011年11月25日(金),26日(土)

メインテーマ 精神医学と身体医学のさらなる統合

会  長 神庭重信(九州大学大学院医学研究院精神病態医学分野)

会  場 福岡国際会議場(〒812-0032 福岡市博多区石城町2-1)

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開催日 2011年10月29日(土)15時より

テーマ 「総会発表をもう一度」「困った症例」「内視鏡手術の説明用紙」

開催地 大塚製薬株式会社本社ビル9階会議室(東京都)

投稿ならびに執筆規定

投稿および著作財産権譲渡承諾書

略語および度量衡単位について

次号予告

編集後記 冨永 悌二
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 本号の「扉」で宇野昌明教授が,学生の教科書について書かれている.確かに今般の学生は昔ほど教科書を買わなくなったかもしれない.かつて「教科書は買うもの」と思って本棚に並べていた世代からすれば寂しい気もする.さまざまな理由があると思う.ただ脳神経外科の教科書はもっていない学生でも,パソコンはもっているのではないかと思う.学術雑誌の多くがWeb上で読むことができ,必要ならダウンロードして手元における時代である.宇野教授も指摘しているように,教科書も将来そのようになるのかもしれない.

 「総説」と「研究」に2編のMRI関連の論文が掲載されている.青木茂樹先生による総説は,MRI拡散テンソル画像の現況をわかりやすくかつ包括的に述べたもので,教育的内容である.またナビゲーションへの応用,定量などの問題点も詳述されており,実践的でもある.石田剛先生の「3D PSIF-DWI法による海綿静脈洞周囲脳神経の描出」は,スライスごとのピクセル選択などのマニュアル操作を含み,手間がかかるとは言え,手間さえかければ個々の脳神経をこれだけ明瞭に3D画像化できるものかと感心する.今後,より洗練されて汎用可能となることを望みたい.

基本情報

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Neurological Surgery 脳神経外科
39巻10号 (2011年10月)
電子版ISSN:1882-1251 印刷版ISSN:0301-2603 医学書院

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