麻酔 74巻11号 (2025年11月発行)

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巻頭言

自動麻酔装置と責任のあり方―共働する未来に向けて松木　悠佳 74巻11号 , 2025年11月 , pp.703-703

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特集　術後痛診療・研究の現状と展望

緒言とまとめ川股　知之 74巻11号 , 2025年11月 , pp.704-706

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　厚生労働省保健局が管理しているレセプト情報・特定健診等情報データベース〔National Database of Health Insurance Claims and Specific Health Checkups of Japan（NDB）オープンデータ〕のL008算定回数をもとに，わが国で実施されている全身麻酔管理手術件数を概算すると，2014年度の約326万件から2023年度には437万件へと右肩上がりに増加している^1）。程度の差はあれ，ほぼすべての症例で術後痛が生じていることを考えると，年間400万件を超える術後痛が発生している計算になる。術後痛は，予後や術後の回復，日常生活動作（activities of daily living：ADL）やquality of life（QOL）に直接影響するのみならず，急性期痛の強さが慢性術後痛の発症に関与していることも指摘されており^2），術後急性期痛管理の重要性は周知のとおりである。

なぜわが国において術後痛の診療・研究が必要なのか？飯田　宏樹 74巻11号 , 2025年11月 , pp.707-714

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はじめに

　術後痛の診療・研究は，患者の生活の質（quality of life：QOL）向上，慢性術後痛（chronic postsurgical pain：CPSP）の予防，高齢化社会への対応，国際基準との整合性，医療経済の効率化のために重要である。術後痛の適切な管理が行われなければ，運動制限や睡眠障害を引き起こし，回復の遅延や再入院リスクを高める。特に急性術後痛が適切に管理されないと，CPSPへ移行し，長期的な健康被害につながる。また，高齢化が進むなか，高齢患者では認知機能低下や合併症を考慮した個別化管理が必要であるが，標準化が進まず，多職種連携の術後疼痛管理チームの普及も限定的である。さらに，術後痛管理のガイドライン策定の遅れや，海外で標準的に使用される鎮痛薬の未承認（ドラッグロス）も課題となっている。本論文では，術後痛管理の歴史と現状を整理し，今後の展望を考察する。適切な術後痛管理の確立は，患者の健康のみならず，医療費削減や労働損失の軽減にも寄与するため，診療と研究の推進が急務である。

なぜ，術後疼痛管理サービスチームなのか？山本　俊介 74巻11号 , 2025年11月 , pp.715-718

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はじめに

　令和4年度診療報酬改定において新設された術後疼痛管理チーム加算は，術後患者に対する質の高い疼痛管理を推進する観点から，術後疼痛管理サービス（acute pain service：APS）チームによる疼痛管理について評価されたものである。APSチームの介入により離床の改善，術後合併症の減少，入院日数短縮が期待されているが，実際にこれらの患者アウトカムの向上などの検証が必要となる。そのためにはAPSチームの介入によりもたらされる影響の検証のためにエビデンスの集積が必要となる。また，当該加算の要件追加のためにさらなるエビデンスや急性期だけでなく亜急性期へと続く慢性術後痛などへの寄与についても期待されている。APSチームが制度として位置付けられたことをきっかけとしてさらにエビデンスの集積が進められることに期待している。

わが国における術後疼痛管理サービスチームの現状中澤　春政 74巻11号 , 2025年11月 , pp.719-727

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はじめに

　1990年代以降，いくつかの研究で術後疼痛管理サービス（acute pain service：APS）チームの介入が術後痛を低減させ，手術患者の合併症予防や在院日数を減少させることが報告されたことにより，欧米諸国においてAPSチームが広く普及することとなった。しかし，その一方で，わが国においては長らくAPSの普及が進まず，この領域において日本は後進国であった。しかし，2022年の診療報酬改定において，APSチームの活動に対して診療報酬加算の算定が可能となったことで，わが国においてもAPSを導入する施設が増加しつつある。わが国においても普及しつつあるAPSであるが，APS導入の妨げとなる要因やAPS活動におけるトラブルなど，それぞれの施設ごとにAPSのさらなる普及に対してさまざまな障壁が存在している。本論文では，わが国におけるAPSの現状を確認し，その問題点を共有することで，さらなるAPSの発展に向けて取り組むべき点を明らかにしたい。

術後痛ガイドライン―既存のガイドラインとの比較，特徴― 松岡　豊 , 天谷　文昌 74巻11号 , 2025年11月 , pp.728-732

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1　策定された経緯

　日本ペインクリニック学会は2025年，『術後痛ガイドライン』（以下，本GL）を刊行した^1）。この背景には，わが国において術後痛の管理の不十分さが長年にわたり指摘されてきたという現状がある。手術患者の80％以上は術後痛を有し，そのうち75％以上は中等度以上の痛みを経験する^2）。術後痛は手術侵襲に起因する生理的反応である一方，適切な鎮痛管理が行われなければ，術後回復を阻害し，術後合併症を増加させる。呼吸・循環，認知機能が悪化し，入院期間を延長させ医療経済上の負担も無視できないものとなっている^3）。また，術後急性期の痛みが遷延化し，慢性術後痛（chronic postsurgical pain：CPSP）として長期にわたって痛みに苦しむことにもなりうる。

術後痛診療―今後，何をするべきか？ハシチウォヴィッチ　トマシュ 74巻11号 , 2025年11月 , pp.733-740

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はじめに

　術後痛を管理するにはシンプルな “疼痛時の指示” に基づいた管理から “advanced” な管理まで広い範囲の選択肢がある。質の高い術後疼痛管理は，患者の術後の痛みだけではなく，鎮痛薬・方法による副作用・合併症をできるかぎり減らし，早期回復を促す管理が望ましいとされている。なぜなら，質の高い術後疼痛管理で患者の術後転帰が改善することがエビデンスにより裏付けられているからである^1）～3）。いうまでもないが，そういった術後疼痛管理をできるだけ多くの患者に提供することは，医療従事者にとっての使命である。

　わが国では術後痛診療において，これまでに一定の成果を上げてきた。そしてさらに今後も新たな課題に取り組む必要がある。しかし，将来の展望について考える前に，まずはこれまでの経過がもたらした結果を分析・確認し，将来へどのようにつなげ，改善していくか検討する必要があるであろう。特集のテーマである “わが国の術後痛診療” をどう向上させるかについて考えていきたい。

今後の術後痛研究の方向性川真田　樹人 74巻11号 , 2025年11月 , pp.741-749

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はじめに

　1990年代半ばは，米国における “痛みのコントロールと研究の10年間（2001年-2010年）” の夜明け前にあたり，痛み研究が開花し始めた時期であった^1）。なかでもげっ歯類のホルマリンテストが注目され，痛み行動の急性相（Ⅰ相）は手術中の疼痛で，遅発相（Ⅱ相）は中枢性感作（central sensitization）された術後痛を反映しているとされ，研究が盛んに行われた^2）。それまでの痛み研究は主に末梢神経をターゲットにしていたが，この時期から中枢（主に脊髄）へと痛み研究がシフトしていった^3）4）。その後2000年代初頭にかけて，痛みの中枢性メカニズムに関する多くの分子が同定され，先行鎮痛（preemptive analgesia）の可能性も喧伝され，痛み研究は飛躍的に発展した^5）。

　麻酔科医もこの動きに呼応して，執刀前にオピオイド投与や区域麻酔を十全に行い，ケタミンをN-methyl-D-aspartate（NMDA）受容体拮抗薬として術中・術後鎮痛に用いるなど，さまざまな術後鎮痛法を試みた^6）7）。しかし当時信じられたオピオイドや硬膜外麻酔による先行鎮痛効果は限定的で^8），最近ではむしろ非ステロイド性抗炎症薬（nonsteroidal anti-inflammatory drugs：NSAIDs），アセトアミノフェン，ガバペンチノイドなどが有効とされている^9）。そして，新規痛み分子をターゲットとした多くの薬物は，必ずしも明確な鎮痛効果を示さず今日に至っている^10）。

　このように，日常しばしば遭遇する術後痛といえども，基礎研究を臨床応用するのは容易ではない。しかし，将来も手術患者を痛みから解放するのが麻酔科医の使命であることは変わらない。そこで本論文では，これまでの術後痛研究を振り返り，今後の研究の方向性についての考察を試みたい。本論文が術後鎮痛を麻酔科医の使命と考える読者の一助となれば幸甚である。

原著

希釈式自己血輸血のための採血に要する時間の末梢静脈ライン採血と動脈ライン採血の比較：後ろ向き研究佐野村　文音 , 北村　裕亮 , 藤本　悠 , 澤登　慶治 , 末澤　千紗 , 荻野　祐一 , 白神　豪太郎 74巻11号 , 2025年11月 , pp.750-755

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要旨

　希釈式自己血輸血（hemodilutional autologous blood transfusion：HAT）のための採血に要する時間および採血中の低血圧発生頻度と昇圧薬（エフェドリンまたはフェニレフリン）使用量を動脈ラインから採血したもの（A群，25名）と末梢静脈ラインから採血したもの（V群，17名）で後ろ向きに比較検討した。採血に要する時間はV群（中央値［四分位範囲］，15［11-18］分）のほうがA群（22［19-29］分）よりも短かった（P＜0.05）。採血中の低血圧（平均血圧≦65mmHg）発生頻度およびエフェドリン・フェニレフリン使用量に両群間で差がなかった。採血に要する時間から見ると，HATのための採血部位は末梢静脈ラインのほうが動脈ラインより適切である可能性が示唆された。

症例報告

カルタゲナー症候群患者の続発性気胸に対する分離肺換気の麻酔経験守川　開貴 , 山田　将紀 , 松岡　拓 , 冨岡　俊也 74巻11号 , 2025年11月 , pp.756-760

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要旨

　カルタゲナー症候群（内臓逆位・慢性副鼻腔炎・気管支拡張症）と診断された85歳，男性の左気胸手術に対し，分離肺換気を行った症例を経験した。周術期の適切な気道管理と，術中の全静脈麻酔による管理，また右用ダブルルーメンチューブを右主気管支（解剖学的左主気管支）に挿入することにより，安全な管理を行うことができた。

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目次 74巻11号 , 2025年11月

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英文目次 74巻11号 , 2025年11月

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外国文献紹介 74巻11号 , 2025年11月 , pp.761-762

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投稿規定 74巻11号 , 2025年11月 , pp.763-768

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ニュース 74巻11号 , 2025年11月 , pp.769-770

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お知らせ 74巻11号 , 2025年11月 , pp.770-770

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奥付 74巻11号 , 2025年11月 , pp.771-771

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定期購読申込みシート 74巻11号 , 2025年11月

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基本情報

麻酔
74巻11号
(2025年11月発行)

電子版ISSN：印刷版ISSN：0021-4892 克誠堂出版

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