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昨年11月,『ブルーボーイ事件』という,史実を基にフィクションの物語として制作にあたった映画を発表した.この映画の題材となった事件・裁判では,1960年代に実際に行われた性別適合手術(当時は性転換手術と表現されていた)をめぐり,その是非が問われた.結果,この裁判を機に,日本国内では性別適合手術がタブー視され,トランスジェンダーと医療における歴史に暗い影を落とすこととなる.この映画の制作を開始した8年ほど前より,トランスジェンダー男性である私自身,トランスジェンダーと医療・法律の関係をより俯瞰的に見る機会が増えた.その一方で私個人の生活においても,医療や法律の問題はいつも隣り合わせにある問題であった.今回は,私自身が映画監督である以前に一当事者として感じてきたことをより主観的に記すこととしたい.そう考えたのは,この国で生活を営むうえで,自らの心身にケアの必要が生じた際に,常に不自由を感じてきたこと,そして,トランスジェンダーをめぐる医療や法律に対して思うことがあり,その個人の思いを届けることが,誰もが健やかに暮らすための一助となる可能性を感じてのことである.やや批判的に聞こえる内容かもしれないが,これが私と医療の現場のありのままの関係であることを最初にお伝えしておく.
まず私自身が医療の現場にアクセスする際に必ず起こることの話をしたい.体の調子が優れないとき,必ずと言ってよいほど思うことがある.それは「病院には行きたくない」という率直な思いである.なぜそう思うのか? その答えはシンプルなもので,まず私たち性別移行を行っているトランスジェンダー当事者の多くが直面するのが,病院にかかる時点で自らのアイデンティティの表明をその都度行わなければならないということだ.保険証を提出すると,受付を担当した相手から大体このような問いが返ってくる.

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