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Ⅰ 大人の自閉スペクトラム症とは
大人の自閉スペクトラム症(ASD)者は,自身の特性に合わない環境で長く過ごしてきた場合,「自分はうまく適応できない」という不適応感を学習してしまうことがある。その結果,不安や抑うつ,対人関係上の困難など,さまざまな二次的症状を呈することがある(Cath et al, 2007 ; Kamp-Becker et al, 2010 ; Russell et al, 2016)。たとえば,抑うつや不安,睡眠障害,強迫症などが挙げられる。これにはASDだから自動的に不適応になるのではなく,環境とASDの特性のミスマッチがあり,そこに不適応が発生することに着目する必要が考えられる。つまり障害の医学モデルではなく,社会モデルによって,成人ASD者は理解されるべきである(Zola, 1982)。
われわれは今年(2026)の研究において,心理社会的環境により成人のASD者はメンタルヘルスが阻害されるという論文を発表した。一つは「日本人自閉症成人における障害者差別的マイクロアグレッションの体験談」(Kato et al, 2026)である。これは,ASD者が受けた無意識の差別(マイクロアグレッション)(Sue, 2010)の体験を質的にまとめたものである。具体的には,過剰な期待や過小な期待を持たれやすく,空気が読めないことを否定的に捉えられる,などといった体験があった。さらに,仲間に入れてもらえない排除の体験もあった。「一般的な人と異なる」という理由だけで,さまざまなマイクロアグレッションを日々受けていることが明らかになった。もう一つの研究は,「自閉症のアイデンティティの偶発性を理解する―健常者によるマイクロアグレッションと社会的カモフラージュにおける自閉症の受容と孤独の連鎖的媒介効果」(Guan et al, 2025)であり,能力主義的なマイクロアグレッションがあるので,ASD者らは社会的に受容されず,その排除からわが身を守るために「普通の人のふりをする」カモフラージュ(Hull et al, 2017)をせざるを得ないというものである。これらの論文は,ASDというもの自体がメンタルヘルスを阻害しているのではなく,媒介として社会的疎外,排除を通してメンタルヘルスが阻害されるということを示している。このような社会的スティグマを通して,ASD者らのセルフ・スティグマが加齢とともに育っていく。それらはトラウマとして脳にこびりつき,洗い流そうとしてもなかなか流れていかない記憶として作用する。表現型は,社交不安やうつ,強迫症,パーソナリティ症と異なれど,傷が癒えないうちにまた上塗りされていってでき上がったものも多いであろう。つまり,大人のASD者は,生々しい傷がどこかしらについている社会的スティグマの被害者とも言える。

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