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はじめに
自閉スペクトラム症(Autism Spectrum Disorder : ASD)は,社会的コミュニケーションの障害と,限定された興味や反復行動を中核症状とする神経発達症である。近年,成人期になってから診断される症例は増加しており,精神科臨床では,不安症,うつ病,強迫症,適応障害などの診療を契機としてASDが明らかになることも少なくない。成人ASDでは中核症状そのものよりも不安や抑うつ,怒り,強迫症状,ためこみ症状といった二次的な精神症状が生活機能や社会適応を大きく障害し,受診の主訴となることが多い。これらの精神症状は,ASDにおける認知的柔軟性の低さ,不確実な状況への耐性の低さ(Intolerance of Uncertainty : IU),感覚過敏,実行機能の偏り,さらには「同一性への固執」や「こだわり」といった中核特性の影響を受けて生じていると考えられる(Lord et al, 2020 ; National Institute for Health and Care Excellence, 2021)。
筆者は,強迫症(Obsessive-Compulsive Disorder : OCD)の臨床を専門としており,長く九州大学精神科の行動療法研究室に所属し活動を行っている。そのため,外来,入院とも多くのOCDの患者を経験しているが,特に入院患者では,もともとASD特性を有していた方が成人となりOCDを併発し,生活に支障が出て治療を受ける比率が多い印象を持っている。そしてASDにみられるこだわりと強迫症状との境界は必ずしも明瞭ではなく,両者は連続的な病態として理解した方が臨床的に有用であると感じている。
成人ASDの支援においては,心理教育や環境調整を含めた包括的支援の重要性が広く認識されつつあり,行動療法は,種々の精神症状を維持している行動パターンや環境要因を分析し,本人の特性に応じた介入を試みる方法である。本稿では,成人ASDにみられやすい精神症状として,不安・抑うつ,怒り,強迫症状,ためこみ症状を取り上げ,それぞれの病態をASDの認知・行動特性との関連から整理する。また,各症状に対する行動療法的な支援について,仮想症例を交えながら概説し,日常診療における実践的な介入方法について考察する。

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