特集 妊娠・出産という経験
妊産婦専門のカウンセリングルームにおける事例紹介―赤ちゃんが可愛くないという女性が,自身の心と家族関係を立て直すまで
小川 朝子
1
1妊産婦心理カウンセリング室
pp.331-336
発行日 2025年6月5日
Published Date 2025/6/5
DOI https://doi.org/10.69291/pt51030331
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Ⅰ 自身の産後うつの体験から,妊産婦専門のカウンセリングルームを立ち上げる
妊産婦専門のカウンセリングルームを立ち上げたのは10年前で,まだ妊娠・出産した女性がカウンセリングの対象になることがあまり知られていない時代であった。
私自身は,2001年に出産を経験し,そこから産後うつになって,何年かした後,心理カウンセラーと出会って良くなった実体験があり,妊産婦のためのカウンセリングルームである妊産婦心理カウンセリング室を開設しようと思いいたった。
私がここでやりたかったことは,妊娠出産が,娘だった女性たちのアイデンティティが一度死に,母として生まれ変わる「死と再生」のとても重要な時期であるということに気づき,そこを支えることであった。
妊娠出産を機に,女性たちがそれまで経験してきた総集編のような心のわだかまりが一気に噴出するかのような激動の時期がやってくることがある。それを一人で抱えて悩んだり,うつになったりしてしまう人や家族が多くいる。
私は,彼女たちの人生がもう一度再出発できるよう,噴出した心の再編成を手助けし,彼女たちが作る新しい家族が元気になる手助けをしている。
このような大切な時期を支えるためには,クライアントの後ろからついて行く従来のカウンセリングだけではなく,指示的なカウンセリングやコーチングの必要性を感じている。本稿では,カウンセリングルームが支える女性たちの事例を取り上げながら,どのようなカウンセリングのプロセスで良くなっていかれるのか,事例(一部匿名性に配慮し,アレンジしたもの)を通してご紹介していきたいと思う。

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