特集 はたらく人たちのウェルビーイング―‘はたらき方’というよりも,‘企業風土’の改革を
働く人たちのウェルビーイング―精神科医の視座より
菊地 俊暁
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1慶應義塾大学医学部精神・神経科学教室
pp.71-73
発行日 2025年2月5日
Published Date 2025/2/5
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Ⅰ 診察室から垣間見えるウェルビーイング
精神科医をしていると,非常に多くの方にお会いします。外来の患者さんやそのご家族だけでなく,職場や福祉関係の方が来られることもあります。年齢も幅広いですし,社会的な立場もさまざまです。家庭と仕事のバランスに悩んでいる方や家族関係に苦労されている方も少なくありません。その方たちを見ていると,ウェルビーイングとはなんだろうか,ということを考える機会が必然的に増えてきます。
精神科の医療の中では,まず治療が行われて症状を取り除き,いわゆる寛解や回復というステージに持っていくことが第一の目標となります。しかし病気の症状が落ち着いても,それまでに失った人間関係や,職場や家庭での役割というものを取り戻せずに苦しみ,また経済的な側面も少なからず影響して,もともとの生き生きとした生活が送れない,ということを目の当たりにします。友人との関係も変化して,また違った形での関わり方が生まれてくることもあります。ウェルビーイングというものが精神や身体の健康だけでなく,職場・家庭などの社会的な役割,さらに経済面など,さまざまな要因が影響し合って形成されるのだ,ということを実感する瞬間です。同時に,精神科医として診療場面だけでは十分に関わることができない部分もあり,歯がゆさを覚える時でもあります。
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