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1 はじめに
うつ病を含む気分障害は,心理臨床家が日常的に支援に携わる主要な精神疾患の一群である。その背景には,生物学的要因に加え,感情調整の困難,低い自己評価,対人関係の葛藤など,複雑な心理的要因が関与している。これらを丁寧に評価することは,診断名を超えて,クライエント(以下,CL)の全人的な回復を支えるうえで重要である。
Emotion-Focused Therapy(EFT)は,心理面接においてCLが体験する感情と,その感情の変容プロセスに焦点を当てた統合的心理療法であり,実証研究によってうつ病への効果が示されている(e.g., Greenberg & Watson, 1998)。EFTでは,うつ病の背景には感情調整不全の問題があると仮定している(Goldman & Greenberg, 2015)。これは,過去の傷つきに由来する感情的苦痛を回避しようとする働きによって,適応感情―適切な行動や意味づけをもたらし,メンタルヘルスに資する感情―の体験が妨げられることに起因する。
EFTでは,心理面接で扱うべき感情に関する課題(Task)と,その存在を示す臨床的な手がかりとなる指標(Marker)が実証的に整理されている。うつ病に関連する代表的な指標としては,自分を責めたり貶めたりすることで,恥の感情が強まり,自信の喪失や無価値感などが喚起される「自己批判」や,過去に重要な他者との間で体験された強い感情(悲しみや怒りなど)が未処理のまま残ることで,意欲の低下や喜びの減退につながる「未完了の体験」が挙げられる。
こうした指標を手がかりに,CL固有のうつ病と関連する感情スキーム―特定の状況において空虚感,絶望,恥などの感情が喚起されることで,適応感情の体験が阻害される内的な仕組み―を探索し理解することが,重要な治療的作業となる。
EFTは,本質的にプロセス志向の心理療法である。そのためアセスメントでは,CL固有の感情面の問題や感情処理のスタイルを把握し,ケースフォーミュレーションを構築する作業と,面接内で介入機会を見極めるために,CLの瞬時ごと(moment-by-moment)の内的体験や感情状態を見定めるプロセス診断(process-diagnosis),という2つの作業が中心的に行われる(Goldman & Greenberg, 2015 ; Greenberg et al., 1993)。

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