特集 26ケースで学ぶ臨床心理アセスメント――インテークとフィードバックをつなぐ〈スキル7〉
こだわりすぎてはいけない――「コスパ」と「タイパ」の検査所見
吉村 聡
1
1上智大学
pp.29-34
発行日 2025年8月30日
Published Date 2025/8/30
DOI https://doi.org/10.69291/cp25070029
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1 はじめに
ある心理臨床家の集まりに出席していたときのことである。一人の高名な先生がやってきて,隣にいた私の友人に親しげに語りかけた。「まだロールシャッハやってるの? あんなのやめなよ,コスパ悪すぎるよ」。
これは,友人同士の気さくなやりとりである(ちなみに,私にはこの発言の先生との面識はなかった)。この文脈を外すわけにはいかない。しかしそれでも,自分に言われたわけでもないのに,私は複雑な心境だった。無論,ロールシャッハが好きだからではあるが,それだけではない。この言葉に,否定しがたい一片の真実があるからである。
たしかに労力がかかるのである。知能検査やロールシャッハ法は,実施だけで1~2時間かかる。所見をまとめるためには,さらにかなりの時間が必要である。保険点数は,心理療法に比べて増えた時間の分が加算されるわけでもない。こうして「時間」「保険点数」など数値をあげると,大変に「コスパが悪い」のである(嗚呼……)。
しかし私は,心理検査が見た目のコストを越えた仕事を果たすことも知っている。言葉にならない言葉を汲み取り,対象者の本質的な理解と治療的関わりの道筋を示唆するのは,検査だからこそなしうる仕事である。だからやめるつもりはない。では,現実に必要とされる時間や労力の問題をどうしたらいいのだろうか。
本稿は,心理検査を業務のひとつとして担う全ての臨床家が思い悩むであろう,この難問に取り組もうとするひとつの試みである。

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