連載 看護師の業務と役割の模索―厚生科研「諸外国における看護師の新たな業務と役割」から・4
タイの場合
近藤 麻理
1
1前・兵庫県立看護大学附置研推進センター
pp.315-319
発行日 2003年4月10日
Published Date 2003/4/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1686100822
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はじめに
東南アジア諸国は,1980年代からの急激な経済成長により発展し,タイなど一部の国は途上国とは言い難い中間的位置にまで成長した。しかし,1997年7月にタイが為替を変動相場制に移行した後,タイの通貨バーツが大幅に下落し,東南アジア一帯に経済危機の嵐を巻き起こした。そして,このような経済危機の影響は,タイの保健医療政策にも少なからぬ影響を与えた。
タイでは,医療にかかる国家予算を抑えるため,地域における予防医療に力を入れ,医療のレファレル(紹介)システムの構築を推進してきた。しかし,首都バンコクで顕著な大病院化や高度医療志向は,都市と地方における健康の格差をより深刻にしている。近年,疾病構造は従来の感染症から,慢性疾患の増加へと移行し,国の医療費が圧迫されてきた。そのため,予防医療は次の段階として,人々の健康増進に向けての地域保健医療へと方向を転換しつつある。
看護は,タイの保健医療政策を支える地域の健康教育や健康増進に関わる人材の育成や指導,地域保健医療におけるコーディネーションの役割を果たすことが期待されている。同時に,病院や高度医療の現場において,より専門性の高い看護も要求されており,看護職は多様なケア提供の場と活動に応える看護を模索せざるを得ない状況である。
本稿では,日本とは異なる保健医療システムの現状を踏まえて,タイの看護職の看護業務や制度について報告する。
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