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トラウマ体験は,有病率の高さと関連する健康状態の悪化から公衆衛生上の問題であり,トラウマ体験者への支援と対策が重要である(Duffee et al., 2021 ; Forkey et al., 2021)。一般人口を対象とした国際的な研究より,死や重傷の目撃,大切な人の予期せぬ死,生命を脅かす病気や傷害の経験などのトラウマ経験に遭遇した経験,強盗に襲われた経験,Adverse Childhood Experiences(ACE)の割合は70%を超え,30.5%は一生のうちに4回以上これらのトラウマ経験に遭遇したことが報告されている(Felitti et al., 1998)。日本においては,国民の約60%が生涯に1回以上のトラウマを経験していると推定されている(Kawakami et al., 2014)。自然災害の被災やテロ被害の経験も深刻なトラウマ体験である。自然災害は世界的に被害を及ぼし,毎年1億5,000万人以上が被災等の影響を受けている(Goldmann & Galea, 2014)。自然災害の被災者やテロの被害者は,経験後に心的外傷後ストレス障害(PTSD)等のメンタルヘルスの問題のリスクがあることが報告されている(North & Pfefferbaum, 2013)。このため,自然災害やテロなどの緊急時やその後において,トラウマ体験をした人への支援やケアが必要である。
トラウマインフォームドケア(Trauma-Informed Care : TIC)は,the Substance Abuse and Mental Health Services Administration(SAMHSA)より,トラウマ体験者へのアプローチとして推奨されている(SAMHSA, 2014)。TICは,提供者とトラウマ体験者の双方にとって身体的,感情的,心理的な安全性に重点を置き,トラウマの影響に対する理解と対応に基づき,トラウマ体験者がエンパワメントとコントロールの感覚を回復する機会を作るためのストレングスに基づくアプローチと定義なされている(西,2021)。近年多くのTICに関するトレーニングやプログラムが報告されているが,先行研究のレビュー論文より,TICを日常的に取り入れるための障壁として,利用可能なトレーニングが十分にないことや,ベストプラクティスのガイドラインが不明確であることが示唆されている(Hopper et al., 2010)。自然災害の被災者やテロの被害者への緊急時やその後におけるTICの必要性が近年認識されているが,実践報告や研究報告は十分になされておらず,発展途上の状況である(Heris et al., 2022 ; Kusmaul, 2021 ; Rosenberg et al., 2022)。

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