投稿論文 展望・レビュー論文
アディクションの先行要因としての心的外傷体験の捉え方の変遷―複雑性PTSDやACEsを中心に
上岡 靖之
1
1放送大学大学院文化科学研究科
キーワード:
嗜癖
,
薬物依存
,
逆境的小児期体験
,
トラウマインフォームドケア
,
CPTSD
Keyword:
addiction
,
substance abuse
,
ACEs
,
trauma-informed care
,
CPTSD
pp.489-495
発行日 2025年7月10日
Published Date 2025/7/10
DOI https://doi.org/10.69291/cp25040489
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薬物依存症者は得てして「快楽を我慢する意志が弱い」と見られたり,脳内に快楽のメカニズムが形成されたので離脱が難しい,と説明されやすい。しかし,それらとは異なる社会心理的説明(自己治療仮説)が,1970年代からなされており,これは精神疾患等の他に起源を持つ感情的苦痛を,薬物依存によって緩和しているというものである。依存症の原因を,それに先立つ体験に求める考え方は,その後,逆境的小児期体験や複雑性PTSDの研究等にも繰り返し登場する。
本稿では,依存とそれに先立つ体験に関する研究史を辿るとともに,時系列に従って提示し,さらに,各研究において依存の原因となる体験をどのように定義しているかを整理した。これにより,冒頭に挙げたような依存に関する言説だけでなく,また,依存症者が囚われた物質そのものよりも,囚われた人の人生の文脈こそが重要であることが浮かび上がることを意図した。

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