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I はじめに
「ケースワークは,さまざまな心理・社会的問題をもつ人々を援助する一つの技法である」(Biestek, 1957/2006)。ケースワーカーは,社会福祉の知識をもち,クライエントと関係を結び,人や環境に働きかけながら,クライエントとともに問題の解決を図る。筆者は,トラウマ・PTSDなど,こころのケアの専門機関でケースワーカーとして働く精神保健福祉士(以下,相談員)である。相談員として,トラウマのある人を支援するとき,クライエントや多職種から期待されることは何だろう。トラウマからの回復は,安全の確立,想起と服喪追悼,コミュニティとの再結合という3段階で展開される(Herman, 1992=2022/2023)。これに照らすと,相談員の役割は,お金,住まい,仕事,学びといったくらしにまつわる困りごとの相談に乗り,クライエントとソーシャルサポートとをつなぎ,くらしの安全の確立を助けることであり,家庭・学校・職場・居場所といったコミュニティとクライエントとの架け橋をつくることだと筆者は考える。
相談業務には,受診にかかるインテーク面接,通院患者のくらしの安定に向けた相談,関係機関との連絡調整などがある。クライエントのトラウマやトラウマに起因する症状の聞き取り,くらしをサポートする制度の利用条件や利用プロセスには,トラウマ症状の引き金となる要素がたくさん含まれる。トラウマのある人に安全にアプローチするにはどうしたらいいか,戸惑い,悩んでいたそのとき,米国で発展してきたトラウマインフォームドケア(以下,TIC)と出会った。TICは,「トラウマとその影響についての知識を持ち,その知識・情報に基づいた関心・配慮・注意を向ける/あるいは関わる」(酒井,2022)というケアの基本概念だ。TICの視点をもつことで,クライエントの再トラウマ化を予防し,回復を促すことができる。大岡(2022)の「人権擁護に配慮した実践をしてきた精神保健福祉士の営みには,TICの視点が多分に織り込まれているはずである」という言葉に背中を押され,試行錯誤しながら取り組んでいるケースワーク実践の一部を報告する。

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