特集 性暴力―「起きた後/起こる前」に支援者は何ができるか?
子どもが性暴力被害にあったら?―子どもと周囲への介入
野坂 祐子
1
1大阪大学大学院人間科学研究科
pp.203-206
発行日 2025年3月10日
Published Date 2025/3/10
DOI https://doi.org/10.69291/cp25020203
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I はじめに―性暴力にまつわる〈とまどい〉
「子どもが性暴力被害にあったら?」という問いは,性暴力にまつわる〈とまどい〉をあぶりだす。
もし,「子どもが交通事故にあったら?」と問われたなら,だれもが「すぐに救急車を呼ぶ」と即答できる。車は見当たらずとも路上に倒れている子どもに駆け寄り,震える声で通報したあとも子どもに寄り添い,周囲も新たな事故を防ぐべく協力して交通整理を行うだろう。搬送先では,すぐに身体的外傷が確認されて治療が始まる。軽傷に見えても念のため検査が行われ,問題がなければ,喜ばれこそすれ怒られることはない。交通安全の諸注意は,身体的外傷が治ってから。家庭から報せを受けた学校は,子どもの状態にあわせた授業参加を認め,経過を見守っていく。
性暴力も交通事故もトラウマ(心的外傷)になりうるできごとであるが,それぞれの〈体験〉は異なる。トラウマティックな体験とは,生死にかかわる危険な状況や裏切りをもたらす関係性に起因するが,自分自身やできごとがどのように扱われたかという〈体験〉は,その後の回復に大きく影響する。もちろん交通事故の衝撃や心身へのダメージも深刻で,周囲も動揺して混乱するものの,ケアを提供することへの躊躇は生じにくい。

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