特集 教科書には書いておらず,大学院でも教えてもらえない,現場で学ぶしかないありふれた臨床テクニック集
「お大事に」の秘密
小川 基
1
1相州病院
pp.91-96
発行日 2025年1月10日
Published Date 2025/1/10
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ここしばらく,まとまった休暇に入る時期に合わせて毎回のように風邪を拗らせている。心理士をしている私としては,この風邪の「意味」を考えざるをえない。同業者に話したら,きっと何かしらの心理学的解釈を与えてくれるだろう。試しに友人のSにLINEでお願いしてみると,早速こんな返事が来た。「家庭では責任感から解放されて,甘えたい部分が顔を覗かせるようですね。それだけ普段は責任を全うしようと力を入れているのではないでしょうか」。
「う~む,なるほどぉ……」と真面目に考えこんでいる(責任感の強い)私に,「いつまでスマホ触ってんの? 早く休みなよ!」と妻の呆れた声。差し出された氷枕を受け取り,横になったとき,友人からもう一通メッセージが届く―「お大事に~」。
タイトルの通り,この「お大事に」こそが私が取り上げるキーワードだ。どういうことかと首を傾げる方もいるかもしれない。とりあえず「お大事に 意味」とGoogleで検索すると,次のような結果が出てきた。「無理をせずに体を労わってほしいと伝える,別れの挨拶」「主に,病人,怪我人,体調が悪い人に向けて言う」。何を今更。わざわざ言われなくてもわかっている。そう,「お大事に」はそのくらい,私たちの社会で当たり前に使われるケア的定番挨拶文句だ。しかし,心理士になりたての私は,この挨拶がどうしても使えなかった。これから書くのは,そんな私が,「お大事に」と言えるようになるまでの物語だ。
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