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2019年末に中国武漢市で発生が確認された新型コロナウイルス(severe acute respiratory syndrome coronavirus type 2:SARS-CoV-2)による新型コロナウイルス感染症(coronavirus disease 2019:COVID-19)は,瞬く間に世界中に拡大し,我々の生活様式を一変させるほどの大きな社会的問題となっている.COVID-19の収束を目指して進めてきた世界的なワクチン接種戦略も,感染力の増強とともに免疫逃避能を獲得した可能性のある種々の変異株の出現により,その有効性の低下が指摘されている.そのようななか,感染者を迅速抗原検査などによりスクリーニングして早期に探知し,経済活動の再開を目指す取り組みが各国で検討されている.現在,COVID-19の診断に用いられる検査法には,遺伝子検査法と抗原検査法が存在する.遺伝子検査法は,主としてリアルタイムRT-PCR法により,SARS-CoV-2のRNAを特異的に検出するものであり,感度・特異度ともにきわめて高い手法である.本検査法は,COVID-19診断のゴールドスタンダードであるものの,検査には精密な操作や機器が必要であり,迅速性に欠けるという課題がある.抗原検査法は,ウイルス抗原蛋白質に対する抗体を用いて,免疫学的手法により,検体中のウイルス抗原蛋白質を検出する方法である.本法においては,ウイルス粒子のなかでも最も量の多い抗原であるヌクレオカプシド蛋白質(nucleocapsid protein:NP)を認識する抗体が主に用いられている.抗原検査法は,大型な機器が必要な抗原定量検査法と,小型の機器もしくはキット単体で検査できる抗原定性検査法の2種類に分けられる.とりわけ抗原定性検査法は,検査に特殊な技術を必要とせず,取り扱い方法が容易で迅速に結果を得られるといったメリットがある.抗原検査法の感度・特異度などの性能は,その原料に用いられるモノクローナル抗体自体の性能や,検体の処理条件,キット自体の検出系などによって決定される.そのなかでも抗体の性能はキットの感度や特異度などの性能を直接左右する重要なものである.本稿では,SARS-CoV-2の抗原検査法の概要や今後の活用法について概説するとともに,当研究室を中心とした共同研究グループで実施している,抗原検査法のための抗体開発の取り組みについても紹介する.
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