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免疫は,外来微生物から身を守るために発達した生体防御機構である。免疫が正常に作動するためには,自己(self)と非自己(non-self)を正しく識別する必要がある。癌は,遺伝子変異やウイルス感染などによって正常細胞から形質転換した細胞であり,生体は,この自己から発生した変異細胞を外敵(foreignness)として排除できるか,すなわち腫瘍免疫が存在するかという問題に関して,免疫学は悲観論と楽観論を繰り返してきた。しかし,近年のprogrammed death-1(PD-1)やprogrammed death-ligand 1(PD-L1)などの免疫チェックポイントに対する抗体薬の優れた治療効果は,生体には腫瘍に対する免疫が存在していることを明らかにするとともに,免疫にかけられたブレーキを解除し,これを再活性化することによって癌を制御するという免疫療法のパラダイムシフトをもたらした。乳癌はこれまで,免疫原性が低い腫瘍と考えられてきた。しかし,近年の腫瘍浸潤リンパ球(tumor infiltrating lymphocyte:TIL)やゲノム解析によって,乳癌のなかでもtriple negative乳癌(TNBC)は,エストロゲン受容体陽性乳癌と比べ,免疫原性が高いことが明らかとなり,免疫療法の開発はこのTNBCを中心に進められている。転移性乳癌に対する治療や局所進行乳癌に対する術前治療において,免疫チェックポイント阻害薬は一定の効果を得ている。現在,免疫療法の効果を予測するバイオマーカーは確立されていないが,そのなかでPD-L1,TIL,腫瘍遺伝子変異総量(tumor mutation burden:TMB)などが注目されている。本稿では,乳癌免疫療法の開発と治療効果を予測するバイオマーカーの現状について解説する。
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