連載 涙が出る料理
第9回 「本当に涙が出る料理」
海道 美奈子
1
1慶應義塾大学医学部眼科学教室非常勤講師
pp.18-19
発行日 2020年11月5日
Published Date 2020/11/5
DOI https://doi.org/10.34449/J0042.15.02_0018-0019
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涙液分泌は求心路の三叉神経と遠心路の副交感神経(顔面神経)が担っている。角膜の三叉神経の自由神経終末には侵害受容器であるTransient receptor potential(TRP)チャネルが存在し,痛みの原因物質として考えられている酸や熱などの多様な刺激に応答する1)。TRPファミリーには唐辛子や山椒の辛み成分であるカプサイシンやサンショオールで活性化するTRP vanilloid 1(TRPV1)やわさびやからしの辛み成分であるアリルイソチオシアネート,玉ねぎの辛み成分である硫化アリルで活性化するTRP ankyrin 1(TRPA1)がある2)。これらの辛み成分が目に入ると,痛くて涙が出る。アリルイソチオシアネートや硫化アリルは揮発性が高いため角膜に存在するTRPA1が直接刺激され涙が分泌されやすいが,辛みは一瞬で消えるのが特徴である。一方,カプサイシンは分子量が大きく,揮発しないため直接唐辛子を触った手で目をこするなどしない限り目に入りにくい。しかし,大量の唐辛子を高温の油で炒めることによりカプサイシンを含む蒸気が目や鼻の粘膜を刺激し,涙の分泌は誘発される。また,大量の唐辛子を使った激辛料理を食べると体内に吸収され,その刺激は脳に伝達され顔面神経や舌咽神経中の副交感神経を介して発汗,涙液分泌,鼻粘膜分泌が起こる。
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