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腹膜播種は消化器がん,特に胃がんや膵がんにおいて最も頻度の高い転移・再発形式で,最大の予後規定因子である。近年のがん薬物療法の進歩によって,根治切除不能・再発がん患者の治療成績は著しく向上した。その一方で,腹膜播種に関してはいまだに顕著な予後改善はみられておらず,実臨床での大きな課題となっている1)。播種治療を困難にする要因の1つとして,治療効果を反映する適切なバイオマーカーがないことが挙げられる。一般に,個々の播種病変のサイズは数mm程度と小さく,CTスキャンなどの画像診断では検出されないことから,他の固形がんとは異なりRECIST(Response Evaluation Criteria in Solid Tumors)による治療効果の判定は困難である。腹膜播種の状況を最も正確に評価できるのは全身麻酔下での審査腹腔鏡であるが,侵襲を伴う手技であり頻回に行うことはできない。したがって,自覚症状や末梢血中腫瘍マーカーの値などに頼らざるを得ないが,これらの情報は必ずしも腹膜病変を正確に反映するわけではない。エクソソームは細胞が放出する30~150nmの細胞外⼩胞で,さまざまな生理活性を有する蛋白質やDNA,マイクロRNA(miRNA)などの核酸成分を含有し,細胞間コミュニケーションに重要な役割を果たしている2)。近年の研究で,がん患者の血中エクソソームはがん特異的な機能分子を多量に含有しており,標的臓器の微⼩環境をがん細胞の生育に適したものに変換することによって,遠隔転移の成立を促進している事実が報告されてきている3)。腹膜播種をきたした患者では,原発巣から腹膜表面に播種したがん細胞が腹腔というフリースペースに直接接している。末梢血中の循環がん細胞が血液中の白血球10⁶~10⁸個に対して数個のレベルで検証されているのに対し,播種患者の腹腔内液中の浮遊がん細胞は少なくとも10⁴個の白血球に対して数個の割合で存在する4)。したがって,腹膜播種患者の腹腔内液は,血中に比べて圧倒的に多量のがん細胞特異的蛋白質やmiRNAを含んだエクソソームが放出されていることが予想される。体液中のエクソソームを対象とした研究では血液を使用したものが多いが,最近は腹水中のエクソソームを使用した報告も増えつつある。漿膜浸潤胃がんの腹腔内洗浄液中のエクソソームでmiR-21とmiR-1225-5pの発現が高い5)ことや,卵巣がんの腹水中に含まれるエクソソーム中のMMP1のmRNAが腹膜中皮に作用して腹膜播種を引き起こすことが報告されている6)。われわれの研究室では,腹腔内液中に含まれるエクソソームに内包されるmiRNAに着目して,腹膜播種の成立や進展に関わる機序を明らかにし,腹膜播種患者の診療に応用できるバイオマーカーを開発することを目指している。「KEY WORDS」エクソソーム,マイクロRNA,腹膜播種,胃がん
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