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summary
【背景】超高齢社会に突入し,ACP(advance care planning:アドバンス・ケア・プランニング)の重要性は高まっている.摂食嚥下リハビリテーション(以下,摂食嚥下リハ)領域では,経口摂取や経腸栄養の可否などが議論として上がるが,それ以外の項目については議論に上がることが少ないのが現状である.今回,失語症患者の栄養に関連したACPの重要性を再認識した症例を経験したので,報告する.
【症例】ACPの記載がない90歳代,女性.キーパーソンは夫の姪である.施設入所中であった7カ月前に脳梗塞を発症し,急性期病院に入院後,当院に転院となった.脳梗塞の後遺症として右半身麻痺,失語症を患っていた.嚥下機能評価を行い,経口摂取可能と判断したが,患者本人の「食べよう」という意欲が乏しく,経鼻経管栄養で栄養管理を行っていた.
【結果】キーパーソンの,患者に対するACPは「穏やかな最期を迎えてほしい」というものであった.しかし,そのACPに対するスタッフ間のとらえ方がさまざまであったため,栄養管理方法に対する意見がまとまらず,経鼻経管栄養にて継続して栄養管理を行った.介入から2カ月後,患者が経口摂取への意欲を示したため,嚥下機能評価を行ったのち,経口摂取を開始した.食嗜好に偏りがみられたため,食形態や食事内容の調整を頻回に行った.3カ月後には主に経口摂取で栄養管理が行えるようになり,4カ月後に経口摂取のみで退院となった.
【考察】失語症をともなう摂食嚥下障害患者では,患者や患者家族が,①経腸栄養,静脈栄養についてどう考えるか,②リスクがあっても経口摂取を行いたいか,③病前の食嗜好がどのようなものであったか,をACPに記しておくと,経口摂取の可否および開始後の糸口となり,「生」への基本的欲求について解決できる.
【結論】食事に関連した事項を記したACPを作成しておくことは,患者の尊厳を守ることにつながる.
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