連載 ケースから学ぶ臨床倫理推論・22
緩和医療におけるモルヒネによる呼吸抑制:緩和医療死
山﨑 宏人
1
Hirohito YAMAZAKI
1
1金沢大学附属病院医療安全管理部
キーワード:
緩和ケア
,
WHO方式がん疼痛療法
,
倫理四原則
,
二重結果の原則(PDE)
,
共有意思決定(SDM)
Keyword:
緩和ケア
,
WHO方式がん疼痛療法
,
倫理四原則
,
二重結果の原則(PDE)
,
共有意思決定(SDM)
pp.1257-1261
発行日 2025年9月27日
Published Date 2025/9/27
DOI https://doi.org/10.32118/ayu294131257
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Case モルヒネの適正な増量を担当医が躊躇しているケース
70代女性の患者は乳癌が肺と骨に転移し,呼吸不全の状態にある.慢性的な呼吸困難に加え,胸部や骨転移部位に強い癌性疼痛を抱えている.現在,モルヒネによる鎮痛が行われているが,痛みのコントロールは不十分であり,患者は苦痛を訴え続けている.家族も,患者のつらさを見るのが忍びないと訴えており,患者のみならず家族もさらなる苦痛緩和を強く望んでいる.しかし,担当医はモルヒネの増量に対して慎重な姿勢を崩さない.特に呼吸抑制のリスクを懸念しており,「もし増量によって患者の呼吸状態が急速に悪化すれば,自分の責任を問われるのではないか」と不安を抱いている.また,それに加えて,モルヒネの使用が死期を早めたと見なされた場合,「安楽死に加担したのではないか」と誤解されることも強く懸念している.こうした法的・社会的リスクへの不安から,医学的には必要とされるモルヒネの適正な増量が見送られ,患者の苦痛が放置される状況となっている.

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