FORUM 司法精神医学への招待――精神医学と法律の接点・Vol.5
わが国における矯正精神医療の位置づけと役割
奥村 雄介
1
Yusuke OKUMURA
1
1東日本成人矯正医療センター
pp.645-652
発行日 2025年5月17日
Published Date 2025/5/17
DOI https://doi.org/10.32118/ayu293070645
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世間の耳目を集める重大事件が起きると,その猟奇性や残虐性からしばしば精神障害が疑われ,精神鑑定が行われる.事件直後には新聞やテレビなどマスコミ報道は過熱化するが,鑑定結果が出て判決が下されると,その後の消息は人々の耳には入らないので興味・関心は薄れていく.精神鑑定で責任能力ありと判断された場合は有罪となる.矯正施設に収容されてから,受刑者がどのように処遇され,どのような治療を受けるのかを知ることはできないため,社会の注目を浴びたケースも,刑務所というブラックボックスの中で影を潜めてしまう.しかし,この一連の流れを俯瞰すると,診断的側面,すなわち精神鑑定は,たとえてみれば交響曲の第一楽章にすぎない.その後,長期間にわたり受刑者を隔離し,改善更生のために刑務作業に就かせ,矯正教育を施し,社会復帰を支援するなど,処遇・治療的側面である第二,第三,第四楽章はすべて矯正施設が担っている.さらに死刑確定者でなければ,どんな凶悪犯であれ,社会に戻ってくる可能性が残されている.近年,開放処遇の刑務所からの脱走があり,世間を騒がせたことは記憶に新しいが,その陰では凶悪犯が満期を終え,出所していることはほとんど意識されることはない.再犯防止のために矯正施設としては手を尽くしているにもかかわらず,前者よりも後者のほうが危険性が高いことは想像するに難くない.刑務所の中で起こっていることは “対岸の火事” ではないことを忘れてはならない.

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