Tauopathyの分子病態と創薬戦略

Molecular pathogenesis of tauopathy and strategies for drug discovery

　アルツハイマー病（AD）に代表されるtauopathy（tau病）は，本来は微小管安定化に働くtauタンパクの，患者脳内における異常凝集および蓄積という病理学的特徴を持つ神経変性疾患である．近年，低温電子顕微鏡法（Cryo-EM）による凝集tauの微細構造の解析の結果，tauopathy間にて凝集tauの構造多型がみられることが明らかになり，これはプリオンにならってtau-strain（株）と呼称されるようになった．Cryo-EMがもたらしたこれらの知見は，凝集tauの構造多型をもとにした新たなtauopathy分類法の誕生や，凝集の分子メカニズム解明およびtau凝集阻害薬に向けた新たなアプローチを構築する糸口となるなど，tau研究にブレイクスルーをもたらしうるものとして注目されている．本稿では，tauopathyの分子病理学的な基礎を論じた後，tauのAD-tau構造形成に必須な部位の同定や，tau-strainの差異が薬効に及ぼす影響の評価，およびtau-strainの存在を前提とした薬剤探索といった，tauopathyの病態解明や治療薬の開発を目指した新しい試みを紹介する．