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悪性脳腫瘍が治療抵抗性を示し予後不良である原因として,複雑な腫瘍組織内不均一性(heterogeneity)を持つこと,また頭蓋内という特殊な微小環境下で周囲組織と相互作用を持ちながら増殖し,あらゆる手段で免疫を回避していることなどがあげられる.従来の細胞株などの研究モデルではこれらの複雑な性質を再現することは困難であり,その解析が不十分となることが脳腫瘍治療開発の妨げの一因となっていた.近年では,患者脳腫瘍をマウスに直接移植して作成されるpatient-derived xenograft(PDX)モデルが,ヒト腫瘍により近い有用なプレクリニカルモデルと考えられている.PDXモデルの確立により多くの新規知見がもたらされているものの,PDXモデルを用いた研究には時間と労力を要すること,長期間飼育するうちにマウス内での生育環境に合わせて腫瘍の性質が変化してしまうおそれがあることが課題と考えられている.近年,新規培養技術であるオルガノイド培養法がさまざまながん研究で注目されている.脳研究の分野においても,2013年9月にLancasterらが世界ではじめて脳オルガノイドを樹立して以来,この三次元組織培養技術は神経科学領域,特に神経の発生および疾患研究において大きな革新をもたらしてきた.脳腫瘍研究においてもオルガノイドモデルを用いた研究成果が報告されつつある.脳腫瘍オルガノイドモデルは,少量の脳腫瘍検体を三次元の足場構造と栄養培地の中で培養することにより,短期間(7~14日程度)で高率に樹立でき,組織学的・分子学的にもより実際の腫瘍に近い特徴を再現できるモデルと考えられている.脳腫瘍オルガノイドモデルは,脳腫瘍の発生や悪性化に関わるメカニズムについての詳細な機能解析研究に加えて,各症例に対するprecision medicine研究への応用も期待されている.従来指摘されてきた脳腫瘍研究の課題を克服できる可能性のある重要な実験モデルとして注目されている技術である.本稿では,脳腫瘍のなかでこれまでにオルガノイドモデルの樹立が報告されている神経膠腫(グリオーマ),髄芽腫,髄膜腫についての今日までの動向と,あわせて脳腫瘍オルガノイドを利用した研究の一例を紹介する.
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